最新記事

ジョンのレガシー

ジョン・レノンを国外追放の危機から救った最強の弁護士【没後40年特集より】

2020年12月23日(水)17時00分
リオン・ワイルズ(弁護士)

移民帰化局の前で喜ぶジョンとヨーコと弁護士のワイルズ(左端がワイルズ、1972年4月)JAMES GARRETTーNY DAILY NEWS ARCHIVE/GETTY IMAGES

<米政府が企てる国外退去措置に対抗するため雇われた私はジョンとヨーコの名前も知らなかった>

まだベトナム戦争が続いていた1970年代初頭、米国政府は「反戦セレブ」のジョン・レノンとヨーコ・オノを追い払おうと画策していた。

しかし当時ニューヨークに滞在していた2人は敏腕弁護士リオン・ワイルズを雇って訴訟で対抗し、勝利した。この判例は今も生きていて多くの移民を救っている。以下ではジョンとヨーコに初めて会った日の詳細をワイルズ自身が語る。


法科大学院で一緒だったアラン・カーンから電話が入ったのは1972年1月14日だ。

20201215issue_cover200.jpg

「リオン、君に新しいクライアントを紹介させてくれ。すごい大物だぞ。ただし、こっちから出向かなきゃいけない。誰だと思う? ジョン・レノンとヨーコ・オノだ。入管法に強い弁護士を探してるので、君を推薦した」

「うれしいね。いつ、どこに出向けばいいんだ?」と私は応じた。

数時間後、私がアップル・レコードの超モダンな社屋に着くと、満面の笑みを浮かべたアランが待っていた。

「リオン、この2人に会えるなら何でもするって弁護士は山ほどいるんだ。私のボスに会ってもらう前に、ざっと事情を説明しよう」

「その前に聞いておきたいんだが、その2人、いったい誰なんだ?」

私が言うと、アランは口をあんぐり開けた。

「ウソだろ、本当に知らないのか?」

私は気まずい気持ちで肩をすくめた。

「知らない」

「分かった、そのことは伏せておこう」と彼は声を潜めた。「あの業界の人間の常として、2人はでかいエゴの持ち主だ。ジョンは、たぶん史上最高の偉大なミュージシャン。ヨーコは彼の妻。彼女もアーティストだが、作品は誰も理解できない。でも彼らのことは誰もが知っている」

それから私たちは運転手付きの黒いキャデラックに乗り込み、30分ほどでグリニッチビレッジにある2人の宿舎に着いた。先導役はアランのボスでジョンのマネジャーでもあるアレン・クライン。ドア越しに来訪者を確認しようとする若者を押しのけ、さっさと中に入った。

私たちはキッチンのテーブルに座り、アランが2人の在留資格に関する書類を広げた。私がじっくり目を通す間もなく、奥の部屋のドアが開いて黒ずくめのきゃしゃなアジア人女性が入ってきた。黒いロングヘアで、大きい目は表情豊かだ。その女性は私と握手し、アランにほほ笑みかけたが、マネジャーのクラインには顔も向けなかった。クラインも知らん顔をしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD

ビジネス

新藤経済財政相、あすの日銀決定会合に出席=内閣府
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中