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ロックの地平を開拓した永遠のギター少年、エディ・ヴァン・ヘイレンよさらば

Eddie Van Halen Changed Rock Music

2020年10月15日(木)19時00分
ケン・マーレー(豪メルボルン大学音楽学部ギター科准教授)

エディがつくり上げるサウンドは激しさの中にも常に温かみを感じさせた(1984年頃) LARRY MARANO-HULTON ARCHIVE/GETTY IMAGES

<65歳で死去したエディは音楽的技術だけにとどまらない多大な功績をロック界に残した。常に音楽と共にあった伝説的ギタリストの生涯をたどる>

伝説的ギタリストのエディ・ヴァン・ヘイレンが10月6日、65歳でこの世を去った。

時代の音楽シーンに多大な影響を与えたエディは、右手でも弦を押さえるライトハンド奏法を習得し、ロックの技巧派ギターソロをポピュラー音楽の主流に押し上げた。素晴らしいプレーを事もなげにやっているかに見せたが、その陰には途方もない練習量と、バンド「ヴァン・ヘイレン」を成功に導いた献身があった。

1955年、オランダ生まれ。父親はサックスとクラリネットのプロ奏者で、エディは兄のアレックスと共に幼少期からピアノを習い始めた。

クラシック音楽の素養は、ギターの演奏スタイルに影響を与えた。ライトハンド奏法は、両手でハーモニーを奏でる鍵盤上の表現をエレキギターに取り入れたものだ。

一家は1962年にアメリカに移住。兄弟はジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトンに憧れて、ロックに傾倒していく。1978年にギター・プレーヤー誌に初めて受けたインタビューでエディは、影響を受けた存在としてクラプトンを挙げ、彼のソロは一音残らず覚えていると語っている。

エディがまだ高校生だった1972年、兄弟は校内の別のバンドのボーカリストだったデービッド・リー・ロスからPA機材を借り受け、バンド「マンモス」を結成する。ギターを弾きながらボーカルも担当することに飽きていたエディは、これ幸いとばかり、そのままロス(と彼のPA機材)をバンドに引き抜いた。

マンモスは「キッス」のジーン・シモンズの目に留まり、彼の資金提供を受けてデモテープを作成。その後、プロデューサーのテッド・テンプルマンと契約を結ぶ。それまでのライブ演奏とセットリストを生かして素早くレコーディングされたのが、デビューアルバム『Van Halen/炎の導火線』(1978年)だ。

ギターの可能性を広げる

ギタリストたちが一躍注目したのは、このアルバムの2曲目に収録されているギターインストゥルメンタル「暗闇の爆撃(原題:Eruption)」だ。この大傑作を聴けば、ギタリストとしての彼のスタイルが20代前半に確立されていたことが分かる。冒頭のパワーコードに度肝を抜かれ、その後はブルースロック調のフレーズが速弾きでパワフルに繰り出される。当時の録音ではあり得ないほど力強く、クリアで圧倒的なサウンドだ。

クライマックスは何といっても、エディを世に知らしめたライトハンド奏法によるフレーズ。アームを巧みに操ってピッチを下げる「ダイブ・ボム」の技は、エレキギターの新時代を切り開いた。

この曲には、エレキギターならではの感度と迫力が生かされている。しかしエディは、新しい表現を探し続けた。2作目の『Van Halen II/伝説の爆撃機』(1979年)では、技巧派のアプローチをアコースティックギターで展開する可能性を提示している。

エディはギターも改良し続けた。初期に制作したのは、1974年の「フランケンシュタイン」だ。ギブソンのハムバッカー・ピックアップをフェンダーのストラトキャスターのボディーに取り付けたもので、やがて彼のトレードマークになる包帯をぐるぐる巻いたようなストライプもペイントしている。

彼はキャリアを通じて楽器のデザインにも関わり続け、ミュージックマンやシャーベル、フェンダーなどのメーカーと共にギターを制作した。

エディのギターサウンドは、ラウドでディストーションを効かせながらも、クリアで明瞭だ。まろやかな温かみを感じさせることから「ブラウン・サウンド」と呼ばれ、何世代ものギタリストにインスピレーションを与えてきた。

ヴァン・ヘイレンにとって最高の売り上げを記録したアルバム『1984』では、キーボードを使って作曲とレコーディングを行った。シングルカットされた「ジャンプ」ではキーボードの和音が生かされているが、エネルギッシュなギターソロはバッハにインスパイアされたキーボードの幻想曲のような展開で、改めてエディの技に驚かされる。

1978〜98年に11枚のスタジオアルバムをリリース。2012年に12枚目にして最後のアルバムとなった『ア・ディファレント・カインド・オブ・トゥルース』を発表した。

だがエディが世界的に注目されたのは、マイケル・ジャクソンの大ヒット曲「今夜はビート・イット」(1983年)で見せた焼け付くようなギターソロだろう。

この32秒間の演奏は、アームを使ったピッチの上げ下げ、耳をつんざくハーモニクス、高速のライトハンド奏法などを次々と繰り出し、信じ難いほど高音まで上り詰めるアーミング奏法で締めるという圧巻の構成。最も有名なロックのギターソロの1つだ。

2000年に舌癌と診断され、2002年に克服を宣言。しかし2019年には、咽頭癌で5年にわたり闘病生活を送っていると報じられていた。

ローリングストーン誌が2015年に発表した「史上最も偉大なギタリスト」ランキングでは8位に入った。だがキャリアが示すように、エディが才能を見せたのは音楽的な技にとどまらない。ロックの新たな地平を開拓し、楽器としてのギターの可能性まで広げる革新性の持ち主だった。

The Conversation

Ken Murray, Associate Professor in Guitar, Melbourne Conservatorium of Music, University of Melbourne

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

<2020年10月20日号掲載>

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