最新記事

BOOKS

『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』は何の本か?

2020年8月3日(月)15時55分
樋口耕太郎

ジュンク堂書店那覇店の『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』売り場(筆者提供)

<「自尊心」をキーワードに沖縄の貧困問題に迫った『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』の著者自身が、反響の大きさを受け、本の成り立ちを説明する>

拙著が物議を醸している。沖縄最大のジュンク堂書店那覇店では6週間連続総合ランキング1位(7月末現在)であることをはじめ、全国的にも大いに注目され、出版から1ヶ月もたたないうちに4刷が決まった。手に取ってくださっている多くの方々は、驚き、勇気づけられ、感動し、涙する一方で、激怒し、恨み、絶望する人たちもいる。

そうなることを望んでいたわけではないが、現実にこれほどの注目を集めている以上、筆者としての意図をはっきりと発信した方がいいのではないかと思うようになった。実際この本は、解釈する人によって、全く違った本であるかのように感じられる可能性が高く、「何の本か」という問いは、それほど単純ではない。

だから、『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』(光文社新書)が何の本かを語る上で、まず、「この本がそうでないもの」を説明する必要があると思う。「この本は〇〇の本だ」、と語ることが難しければ、まずは、そうでないものを説明することから始めるしかない。

特定のカテゴリーに入らない本に仕上がった

第一に、この本は特定のカテゴリーに入らない。自分では意識していなかったから、誰かが指摘してくれるまで気づかなかったのだが、確かに、この本のジャンルを特定することは難しい。沖縄地域研究、経済、貧困問題、文化、心理学、幸福論、哲学、スピリチュアリティ、経営、マーケティング、未来学、教育、子育て、自己啓発、社会学、日本研究、エッセイ、ノンフィクション、物語......どれも該当しそうだが、どのカテゴリーでもないとも言える。

そのような本に仕上がった理由にはいくつか思い当たることがある。私自身カテゴリーにまったく関心がないからだ。言い逃れでも何でもなく、私は沖縄の専門家ではないし、貧困の研究者でもない。教室では魂を込めて学生と接し、私の情熱の全てをぶつける努力を続けているが、自分の中では教育者とも違うし、今年でもう9年目になる大学教員という職責にもいまだに実感がない。だから本書は研究者の立場で書いたわけではない。

アカデミズムの世界で、私の論説はどこにも分類されそうにないし、そもそも、私の存在自体が一般的なアカデミズムのルールに沿ってもいない。研究者といえば「専門分野」がありそうなものだが、私は自分が心から関心を持ちたいと思うことにしか関心が持てない質で、「専門分野」という枠組みを背負った瞬間に、その中に、自分自身に対する嘘が混じってしまうような気がするのだ。下手なたとえかもしれないが、アカデミズムの専門分野は、国境のようなものだと思う。一見重大なことのようにも感じられるが(そしてもちろん、その意義は大きいが)、例えば人間、自然、宇宙を考える際には意味をもたなくなる。

事業経営者であることは、私にとって本当に(多分教員であることよりも)大切なことだが、資本主義経済のルールにはほとんど関心がないし、こんなことを言ってはかなりスカしていると思われそうだが、お金そのものにも(今では)ほとんど関心がない。だからと言って、利益が破格に上がらない事業にも関心がない。対価に対して無関心でいることも、自分と自分が関わる人たちを粗末にすることだと思うからだ。

私は、お金について一番大切なことは活かし方(つまり、愛だ)だと思う。愛に向き合い、愛を学び、愛を生きるから、はじめてお金を人間の役に立てることができる。これは、実は、事業者にしかできない仕事だと思う。

そもそも、イノベーションとは、常にノンジャンルではないかとも思う。経営者の本質の一つは、昨日まで世の中に存在しなかったものを、形にすることである。新しい物を生み出すときに、(過去の)専門分野はあまり意味を持たない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、USMCA離脱を検討=報道

ビジネス

米雇用創出、86.2万人下方修正 25年3月までの

ワールド

NATO、北極圏プレゼンス強化で新任務 加盟国間の

ワールド

イラン高官「ミサイル能力について交渉せず」、米との
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 5
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 9
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中