最新記事

映画

痛快会話劇『ナイブズ・アウト』は、古くて新しい名探偵の謎解きドラマ

Reinventing the Whodunit for the Trump Era

2020年1月31日(金)17時15分
デーナ・スティーブンズ

名探偵ブラン(ダニエル・クレイグ)が暴く殺人事件と家族の真実 MOTION PICTURE ARTWORK ©2019 LIONS GATE ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

<セレブな家長が殺され、家族は全員ワケありで容疑者――超定番の推理劇をライアン・ジョンソン監督が現代的に演出した>

「この男は『クルー』のゲーム盤の中で暮らしていたんだな」。著名なミステリー作家ハーラン・スロンビー(クリストファー・プラマー)が遺体で発見され、現場を検証していたエリオット警部補(ラキース・スタンフィールド)が相棒に言う。

スロンビーのビクトリア様式の邸宅は、さながら迷宮だ。秘密の通路があり、アンティークの不気味な置物が並んでいて、ビンテージの短剣のコレクションが飾られている。屋敷の主が殺された事件の謎を解くボードゲーム「クルー」の世界そのものだ。

同時に、エリオットのセリフはこの映画の特徴を切り取っている。ライアン・ジョンソン監督が「アガサ・クリスティーにささげる」スタイルで撮ったという『ナイブズ・アウト』は、名だたる俳優が勢ぞろいして、典型的な謎解きドラマに敬意を払いながら大いに楽しんでいる。

85歳の誕生日を家族と共に祝った翌朝、ハーランは喉を切られて死んでいた。当初は自殺かと思われたが、匿名の人物から依頼を受けた名探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)が登場する。

家族がそれぞれ事情聴取で前夜の様子を語りながら、各人のプロフィールがテンポよく紹介されて、全員に殺人の動機があることが分かってくる。長女リンダ(ジェイミー・リー・カーティス)は冷淡な不動産業経営者で、自力で成功したというアピールに余念がないが、事業を始める際に父親から100万ドルの融資を受けている。

父親の跡を継いで出版社を経営している次男ウォルト(マイケル・シャノン)はメディアの大物気取りだが、実際は無能のおべっか使いにすぎない。ハーランの亡き長男の妻ジョニ(トニ・コレット)は落ち着きがなく、義父の資産を当てにして化粧品事業を営んでいる。

うさんくさい家族の中で唯一、慎みを保っているのは、ハーランの専属看護師マルタ( アナ・デ・アルマス)だ。型破りの探偵ブランは、亡き雇い主に心から尽くしていたマルタの献身と「嘘発見器」(彼女は自分が嘘をつくと嘔吐するという特殊体質の持ち主なのだ)の助けを借りて、事件の真相に迫る。

毒気の強い痛快な会話劇

家族の裏切りの動機が見えてきた頃、長女夫婦の放蕩息子ランサム(クリス・エバンスがダメ男を見事に演じている)が突然現れて、マルタと共に真実を探り始める(彼は本当に味方なのか?)。

変わり者の容疑者だらけで、さまざまな人物の視点からのフラッシュバックの映像が続く構成は、観客にとって気持ちいいほどレトロかもしれない。ただし、脚本も手掛けたジョンソンは、伝統的な謎解きドラマを驚くほど現代的かつ政治的に演出している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ハンガリー首相と電話会談 米ロ首脳会談

ビジネス

HSBC、金価格予想を上方修正 26年に5000ド

ビジネス

英中銀ピル氏、利下げは緩やかなペースで 物価圧力を

ワールド

米ロ首脳会談、2週間以内に実現も 多くの調整必要=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中