最新記事

インタビュー

「性欲はなぜある?」が揺るがす常識 現代美術家・長谷川愛が示す「未来」

2019年8月14日(水)16時30分
Torus(トーラス)by ABEJA

torus190814hasegawa-2-2.jpg

『極限環境ラブホテル 木星ルーム』"これは今現在人類が辿り着けない場所を体験させるラボ、そしてその異なる環境での人体のポテンシャルを研究するためのラブホテルです。ジュピタールームは部屋自体が回転し、遠心力によって木星の重力、2.35Gを擬似的に体験することができます。(中略)この部屋では、体重50kgの女性は117kg、70kgの男性は約164kgになります。木星の重力下であなたの性欲や愛情はどのように表現されるのでしょうか?" (Ai Hasegawaより)

プロジェクトが示す、いずれ到来する「未来」

一連の作品が示す視点や考え方はときに怖がられたり嫌悪感を示されたりします。でも、いずれ到来する未来の姿かもしれません。

実在する女性カップルの間にできうる子どもの姿を予測し、その画像を作成した『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』。この作品も現実的な「未来」を表現しました。

torus190814hasegawa-2-3.jpg

『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』"実在する同性カップルの一部の遺伝情報からできうる子どもの姿、性格等を予測し「家族写真」を制作した。現在ではまだ"不可能"な子どもだが、遺伝子データ上での子どもの推測ならば同性間でもできる。(中略)このプロジェクトは生命倫理と科学技術に対する決定を多くの人に解放する装置として、アートはどのように関わることができるのか模索する試みでもある。" (Ai Hasegawaより)

単にコンピュータ・グラフィックで架空の「子ども」を作るのではなく、iPS細胞の研究者への取材や書籍などで裏付けを得たうえで、カップルの両方から本物の遺伝情報を提供してもらい、それを元に「子ども」を作ったのです。

そこまで「リアリティ」にこだわったのは、今後重要となる生命倫理の一つのテーマを可能な限り現実的に描きたかったから。「どうせフィクションでしょ?」と思っている人でも、いま・ここの地続きとして、プロジェクトに示されたような「未来」がくるかもしれない、自分の問題なのだ、と考え議論してほしかったからです。

「同性間で子どもをつくれる技術ができたらどう思いますか?」と聞いたらどんな反応が出てくるでしょう。「神の領域だ」「ちょっとまだ早いのでは?」。そんな声が即座に出そうです。

ただ、その反応自体に十分な説得力があるわけでもない。

その程度の理由でなかったことにされているテーマに、実在するカップルとその「子ども」たちという姿を示して問い直したかった。

「同性間の生殖技術に反対することはこの家族に対して存在するなというのと同義でもある。存在するなと言えるのか? 言えるならその理由は? ロジカルな答えを」と。

否定的な意見もあっていい。何が非倫理的なのか納得できる理由が出てきたら、このプロジェクトに取り組んだ意義はあると思っていました。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国スマホ販売、第1四半期はアップル19%減 20

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 10

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中