最新記事

食育

「まずい給食」も出る時代に、学校で行われる味覚教育とは何か

2017年10月24日(火)17時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

mikakubook171024-2.jpg

子供たちと塩味・甘味・苦味・酸味・うま味の五味を学ぶ(2016年の「味覚の一週間」より) 写真提供:「味覚の一週間」事務局

その味覚教育が盛んなフランスで1990年に生まれたのが「味覚の一週間」。姉妹版として、日本でも2011年に始まった。フレンチのシェフだけでなく、和食も含めた国内外のトップクラスの料理人、そして生産者が講師を務め、手弁当で全国の小学生たちに出張授業を行うという贅沢ぶりだ。

勉強の集中力アップにもつながる

瀬古事務局長によると、これは「きっかけを与える授業」だ。一度授業を受けると、「甘い」だけでなく、「甘味の中に酸っぱさもある」というように、子供たちが自分で味を見つけられるようになるという。

子供の味覚は限られており、放っておけば、自分の好きな物ばかりを食するなど偏りが出てしまいがち。だからこそ、さまざまな食べ物に出合えるよう大人が導く必要があると瀬古氏は力説する。

mikakubook171024-3.jpg

授業の最後に講師手づくりのマカロンで、フルーツの酸味、クリームの甘味、チョコレートの苦味などさまざまな味が含まれていることを子供たちが確認(2016年の「味覚の一週間」より) 写真提供:「味覚の一週間」事務局

「味覚の一週間」の活動を支えるのは、各学校と講師、事務局をつなぐ草の根ボランティアのコーディネーターたちだ。一方、行政レベルでも、「食の都」づくりを掲げ、「ふじのくに食の都仕事人」として表彰した料理人や菓子職人と連携し、地元の生産者や食材に子供たちが触れ合う機会の創出に取り組む静岡県のような自治体が増えてきている。

ピュイゼ博士は、五感を働かせて感じた「味覚」を言葉で表現する重要性を説くが、実際に「味覚の一週間」を通して言葉が豊かになったり、コミュニケーション量の増加が見られたり、「もったいない」という気持ち、または喜びを他者と共有することができるようになったりするという。

また、小学校高学年までに食育を行うことで勉強にも集中できるようになることなどが近年分かってきており、その成果が研究としてもまとめられている。

単なる味、たかが食と思うことなかれ。このように食育は、味を学ぶ以上の効果を期待でき、さらには大人と子供が一緒にコミュニケーションを図ることのできる手段にもなっているのだ。


『子どもの味覚を育てる
 ――親子で学ぶ「ピュイゼ理論」』
 ジャック・ピュイゼ 著
 石井克枝・田尻泉 監修
 鳥取絹子 訳
 CCCメディアハウス



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中ロ首脳、中東情勢巡り近く電話会談へ=ロシア大統領

ビジネス

米輸入物価、5月は前月比横ばい エネルギー製品の低

ワールド

支援物資待つガザ住民59人死亡、イスラエル軍戦車が

ビジネス

米5月小売売上高‐0.9%、4カ月ぶりの大幅減 自
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中