最新記事

食育

味覚の95%は鼻で感じる──味覚を育てる「ピュイゼ理論」とは何か

2017年10月19日(木)16時33分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

味覚の教育とは「言葉」を育てること

ある年齢になると、それまでは普通に食べていたものを急に嫌がるようになる子供がいる。それは味覚が変化したからというより、子供の成長過程における「拒否」だという。体にいいからと無理に食べさせられることへの拒否だったり、あるいは、新しいものに対する拒否であったり。子供の「嫌い」は自己主張の1つなのだ。

実は、味覚(味)というもの自体が、人それぞれの主張であり、表現だと言うことができる。ピュイゼ博士曰く、「『味覚』そのものが存在するのではない」。全ては人が食べ物や飲み物を口にして味わい、あらゆる感覚を通して感じたものを脳に伝え、その情報を表現した「言葉」なのだ。

だから、子供たちに味覚の教育をするということは、自分が感じたものをどう表現するかを教えることでもある。ピュイゼ博士の「味覚を目覚めさせる授業」を受けていない子供は、匂いを表現する語彙があやふやだったのに対し、授業を受けた子供は的確な表現をするようになったという(覚えているだろうか。味覚の大半は嗅覚なのだ)。

ピュイゼ博士は、子供たちが味覚を自由に楽しめるよう、あらゆるチャンスを与えてほしいと述べている。栄養面ですぐれた食事じゃないとダメとか、昔ながらの食事がいいということではなく、菓子パンとジュースだけでは、得られる感覚の範囲が狭すぎて「味覚を開花」させられないからだ。


私は個人的には、コカコーラやケチャップ、キャンプ用の簡易食品を食べる子どもを見てもあまり憤りを感じません。私の願いは、そういう子どもたちがそういう食品しか知らないのを避けたいだけです。子どもの味覚が開花するのを助けるのは私たち、(中略)もし子どもが「偏った味覚の持ち主」になるなら、それは特別の場合をのぞき、私たちのやり方に問題があったということです。(11ページより)

なお本書は、ピュイゼ博士の理論に基づく味覚教育を、日本の一般家庭でも実践できるテキストになっている。その理論をベースに、日本ならではの食文化や風土を大切にした味覚教育を行うため、ピュイゼ博士の許可の下、日本人監修者によってメニューが改訂された。食材や料理は日本向けのものになり、都道府県別の食の特性を考えるページも追加されている。

人の味覚は小学生のうちに決まるらしい。だとすると、今の自分の好き嫌いはどこに要因があるのか、ひょっとしたら味以外の感覚が原因でアプローチを変えれば食べられるようになるのか......。子供に教えるだけでなく、自分の味覚を見直すきっかけにもなりそうだ。


『子どもの味覚を育てる
 ――親子で学ぶ「ピュイゼ理論」』
 ジャック・ピュイゼ 著
 石井克枝・田尻泉 監修
 鳥取絹子 訳
 CCCメディアハウス

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋

ビジネス

投資家がリスク選好強める、現金は「売りシグナル」点

ビジネス

AIブーム、崩壊ならどの企業にも影響=米アルファベ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中