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マクロスコープ:防衛予算2%目標、今年度「達成」か トランプ政権へアピール

2025年07月03日(木)13時31分

 日本の今年度の防衛関連予算が、2022年度の名目GDP(国内総生産)比で2%を超える可能性が出てきた。写真は、日本国旗と海上自衛隊の護衛艦。2022年9月、神奈川県横須賀市で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Tamiyuki Kihara

[東京 3日 ロイター] - 日本の今年度の防衛関連予算が、2022年度の名目GDP(国内総生産)比で2%を超える可能性が出てきた。政府は27年度に防衛費と関連経費を2%とする目標を掲げているが、2年前倒しで達成することになる。事情に詳しい複数の日本政府関係者が明らかにした。

関係者の1人は「前倒しで目標を達成できれば、トランプ米政権に対して防衛に関する日本の積極姿勢をアピールできる」と話す。

今年度の当初予算は、防衛費と海上保安庁の予算などの合計額が9兆9000億円で、22年度の名目GDP比約1.8%となっている。前出の関係者は、この秋に補正予算が編成されることを条件に、総額が同比2%を超える見通しを示した。「当初予算と補正予算を合算しても、2%を超えれば初めてのことだ」と説明している。

政府目標はもともと、22年末に策定した国家安全保障戦略などの安保関連3文書に盛り込まれたものだ。その一つ「防衛力整備計画」には、23ー27年度の防衛費総額を「43兆円程度とする」と明記している。財源は歳出改革や決算剰余金の活用、所得税、法人税、たばこ税の増税などでまかなう。

22年度の名目GⅮPは557兆円余りで、2%は11兆1000億円程度。25年度当初の9兆9000億円に、補正予算で1兆2000億円ほどを積み上げれば目標を達成することになる。24年度は政府全体で13兆9000億円の補正予算を編成し、そのうち防衛費だけで8268億円だった。

<さらなる上積み要求、日本国債への影響>

ただ、早期の達成が、新たな課題の呼び水になるとの指摘もある。

トランプ政権内では、日本に対して防衛費のさらなる積み増しを求める声が上がっている。ヘグセス米国防長官は5月、シンガポールでの演説で「北大西洋条約機構(NATO)加盟国はGDPの5%を防衛費に充てることを約束している」とし、「アジアの主要な同盟国が、北朝鮮など手ごわい脅威に直面しているにもかかわらず、防衛支出がより少ないというのは理にかなっていない」と述べた。

前出とは別の日本政府関係者は「日米で防衛費5%への引き上げについて協議したことはない」と否定するが、トランプ政権がいつ働きかけを強めるかは見通せないのも事実だ。

バークレイズ証券の橋本龍一郎エコノミストは「政府が22年度比で2%を達成しても、分母である名目GDPが伸びているので、足元の比率でみれば2%を下回るはずだ」と指摘。米国が防衛費の積み増しをさらに要求してくる可能性があるとみる。

    その場合、「重要になるのは防衛予算がどの程度国内に落ちるかだ」と言う。橋本氏は、仮に防衛予算の増加分の6割が国産品に充てられれば、名目GⅮPの拡大を通じて政府債務GDP比率はむしろ改善すると試算。「NATOの新基準ではインフラ整備なども防衛費の対象に含まれることから、経済への影響という意味で重要なのは額ではなく中身だ」と話す。

一方、さらなる財源の捻出が必要になった場合、日本国債の格下げリスクはないのか。

米格付け大手ムーディーズは14年末以降、日本国債の信用格付けを「A1(上から5番目)」、見通しは「安定的」で維持している。かつて最上位のトリプルAを付与していた時期もあったが、デフレ進行に伴う財政の悪化基調を受けて徐々に引き下げてきた経緯がある。

日本のソブリン格付けを担当するアナリスト、クリスチャン・ド・グズマン氏は、「世界的なリスク環境において地政学リスクが上位を占める状況で、防衛費に上方圧力がかかる状況であるのは世界的な現象であり、日本だけではない」と指摘。「防衛費をいくらに増やすとコミットしたり発表したりするだけで、当社がソブリン格付けを見直したり変更したりすることはない。財源となる歳入面を含む幅広い予算全体を把握して総合的に判断する必要がある」と述べた。

また、仮に政府が5%への引き上げに動いた場合のシナリオについては、「日本は他の先進各国と比べても財政に余裕がなく、既に大きな債務を抱えている。また、これまで長年にわたってGDP比1%としてきた防衛費を突然そんなに拡大して支出先が十分に存在するのか」と疑問視。「注目しているのは、何が歳出や財政赤字の拡大を牽引しているかということではない。もしも財政赤字が拡大するならば、財政再建に向けたトレンドがどうなるか、ということだ」とした。

(鬼原民幸 取材協力:植竹知子、久保信博 編集:橋本浩)

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