最新記事

食育

味覚の95%は鼻で感じる──味覚を育てる「ピュイゼ理論」とは何か

2017年10月19日(木)16時33分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

味の種類は4つでも5つでもない

味覚の大半が嗅覚によるものだとすると、そもそも「味」とは何なのか? ピュイゼ博士は「味とは味覚そのもので、そこが触覚や温度など、他の感覚と違うところ」だと述べている。つまり、人が感じたものが味、ということだ。

一般的に、味は4つの基本味に分けて考えられる。塩味(鹹味)、甘味、苦味、酸味だ。ただ、この分類法に異議を唱える科学者は多く、これでは日本の「旨味」がどこにも属さないことになると、ピュイゼ博士も本書の中で指摘している(日本では通常、旨味を含めた5つが基本味とされる)。

いずれにせよ、味というのは、それぞれが単体で存在しているというよりも、虹のように無限に変化する「連続体」なのだという。甘味から苦味までの4つ(5つ)の味の間には、あらゆる違った味が存在するということだ。

実際、私たちは「塩味がきつすぎる」「甘すぎる」といった表現をする。それは、いずれかの味の「濃さ」を感じているからだ。その感じ方(感知する濃度)は人によって大きく違っていて、マラリアの特効薬として知られるキニーネの苦味を感じる差は500倍にもなる。

また、味覚障害と分けて考えなければいけないものとして「味盲(みもう)」がある。色覚異常のように特定の味を認識できないことで、アセスルファムという合成甘味料を「苦い」と思う人も20%いるという。反対に、酸味に敏感な人や苦味に敏感な人など「味覚過敏」の人もいる。

人の感覚器官はそれぞれ違っていて、舌に何百とある受容体も誰ひとりとして同じではなく、同タイプの受容体の数も異なっているそうだ。つまり、人は生まれつき同じ味覚を持ってはおらず、味の感じ方(つまりは味そのもの)も人によって違っているのだ。

生まれつきの「好き嫌い」はない

このように味を感じる能力には大きな違いがあり、さらには年齢や健康状態によっても変わってくる。しかし、そこに優劣があるわけではなく、あくまで自分が何をどう感じるかを認識できることが重要だと、ピュイゼ博士は言う。だからこそ、子供たちへの味覚の教育が重要になってくるのだと。

一方で、自分の食べ物の好き嫌いは遺伝だと思っている人もいるかもしれない。だが、たとえ家族と同じ好き嫌いがあったとしても、本当に遺伝によるものなのか、絶対的な証拠はないという。

食べ物の好き嫌いには、育った環境や、母親がそれを嫌いで子供にも食べさせなかったなど、さまざまな要因が考えられる。子供の頃に無理やり食べさせられた、といった過去の嫌な経験のせいで食べられなくなる人もいる。また面白いことに、赤ちゃんは親の表情にも影響を受けるらしい。

例えば、親(または世話をする人)が赤ちゃんにほうれん草を食べさせるとき、自分がほうれん草好きであれば、「これはおいしいものだよ」という表情をして赤ちゃんに差し出す。すると赤ちゃんは、その表情を読み取って、ほうれん草=おいしいものと思う。

だが、もしほうれん草が嫌いな人であれば、赤ちゃんはそこに「おいしいもの」という表情を読み取れないため、ほうれん草が嫌いになってしまうというのだ。こうした好き嫌いは「生まれつき」ではないし、決して「遺伝」でもない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、紅海任務のホルムズ海峡への拡大に慎重=カラス

ビジネス

米住宅業者の景況感、低迷続く 3月わずかに改善

ワールド

ホルムズ海峡船舶護衛、欧州の多くで慎重論 「われわ

ワールド

トランプ氏訪中、延期の公算 「イラン作戦の成功優先
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったのか?
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 5
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 6
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 7
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 8
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 3
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中