最新記事

映画

アカデミー賞候補入り、日本人夫婦の素顔

2014年1月20日(月)16時46分

──別れようと思ったことは?

乃り子 若いときは純粋だから、すごく彼を愛してた。作品にも人間性にもほれて。ところが、だんだん自分のサングラスがずれてくるわけよ。何これって、本当の姿が見えてきて。

 でも家を出ていくためには自分の絵で稼げるようにならなきゃ。絵が売れないのに出ていくと、ほかの仕事で稼ぐためにアートをやめなきゃいけない。それだけはできなかった。女性として屈辱的な気持ちがいつもあったけど、絵を続けるためには仕方なかった。

 それにどんな飲んだくれでも、息子のために父親が必要だと思ったから。そうこうしているうちに06年、彼が急に呼吸困難になって病院に担ぎ込まれたのよね。

有司男 ああ、飲み過ぎでね。

乃り子 そのとき急にガクッて弱くなったわけよ。

有司男 もう飲んでないよ、10年間。一滴も。

乃り子 7年でしょ! そうなると弱くなった相手を捨てるのは卑怯な感じがしてね。それと長く一緒にいれば情が湧いてくるものじゃない。例えば使い古した手袋も、新しいのを買うべきだけど捨て難いとかね。もう少し大事に使おうっていうか。だってジーンズだってある程度なじんだほうがいいでしょ。

──映画で「女性のアーティストが成功するには鍵のある部屋がいる」「ギュウちゃんとの苦労があったからキューティーが生まれた」と語っている。

乃り子 どちらも本音。それまでは油絵とかエッジングとかいろいろしたけど、自分の作品だとは思いながらも過去の作家の模倣のようになってた。ピカソもシャガールもレンブラントも何も超えていなかったのよね。 だからいつも私は本当にアーティストなのかと自問し続けていた。

 でもキューティーを作ったときに、これは完全に私のクリエーションだと、私はアーティストですって、堂々と言えるようになった。そのキューティーはギュウちゃんとの生活の中から生まれたわけで、だから過去を否定することはできない。

──妻を「秘書」呼ばわりするなど、ぞんざいな扱いだが。

有司男 そうだなあ。結局はどたばたで40年間過ごしたからね。「別れようぜ、この野郎」とけんかしながらも協力してやってきたしね。そういうのを映画で1本まとめて振り返ってみると、愛情が流れてたんだと感じるね。

乃り子 映画見て初めて愛情に気づいたんだって。

[2013年12月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

BRICS、トランプ氏の関税警告に抵抗 「反米的で

ビジネス

イスラエル中銀、政策金利4.5%に据え置き 地政学

ビジネス

テスラ8%安、マスク氏のコミットメントに疑念 「ア

ワールド

ロシア前運輸相が自殺、プーチン氏による解任直後 連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 6
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 9
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 10
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 10
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中