最新記事

映画

古き良き保守を演じたイーストウッド

昔かたぎな『人生の特等席』はシニア世代の心をつかむ人生賛歌

2012年11月29日(木)14時46分
ラミン・セトゥデ(エンターテインメント担当)

家族の絆 伝説的なスカウトのガス(左)は視力の衰えを補うために、娘ミッキーの力を借りる © 2012 Warner Bros. Entertainment Inc.

 映画『人生の特等席』は、クリント・イーストウッドと米共和党との深いつながりを思い出させる。もちろん、製作サイドは政治とは何の関係もないが、イーストウッドがメジャーリーグの老スカウトを演じたこの映画は、昔かたぎなアメリカへの愛そのもの。リベラルなハリウッド映画に不満を持つ保守層のために作られたような作品だ。

 イーストウッドはチャック・ノリスやジョン・ボイトと並び、保守層に好かれる数少ない俳優の1人。だからこそ大統領選でも、8月末の共和党大会での演説という大役を任されたのだろう。彼のファン層が集まる場所は、映画のPRにも最高だった。

 有名人やブランドの認知度、好感度を「Qスコア」と呼ばれる数値で割り出すマーケティング会社、Qスコアズ・カンパニーのヘンリー・シェーファー上級副社長に言わせると、イーストウッドは「不滅のスター」。3月の調査では、アメリカ人の82%が彼を知っていると答えた。Qスコアは50と判定され、トム・ハンクスやデンゼル・ワシントンと並ぶトップクラスだった(セレブの平均スコアは17)。

 さらに50歳以上を対象にした調査では認知度は96%、Qスコアは57を記録。「晩年になって好感度が急上昇した」と、ボックスオフィス・ドットコムのフィル・コントリーノは言う。「今のイーストウッドはアメリカの顔だ」

 近年は『スペース・カウボーイ』『ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』とヒットを連発。今回の『人生の特等席』は、実に19年ぶりとなる「監督を務めない主演作品」だ(監督は長年の製作パートナー、ロバート・ロレンツ)。だからこそ、イーストウッドらしい保守色が際立っている。

毒舌と銃が保守派に人気

 ガス(イーストウッド)はアトランタ・ブレーブスのスカウト。コンピューターを毛嫌いし携帯も持たない彼の姿は、シルバー世代の共感を呼ぶ。しかも、不器用ながらも家族思いの男だ。その証拠に、視力の衰えたガスを案じる娘のミッキー(エイミー・アダムス)は、弁護士のキャリアをなげうってまで父の最後のスカウトの旅に付き添う。

 イーストウッドが演じるのは、共和党大会で演説したときと基本的に同じ、辛口だが率直でユーモラスなキャラクターだ。彼が共和党支持者に人気な理由を尋ねると、党の討論戦略担当ブレット・オドネルはこう答えた。「共和党保守派は銃の所有権を重視している。イーストウッドが演じる男はデカい銃を振り回し、思ったことをずばずば言う。負け犬でも最後は必ず勝つことができる。こうした西部劇的なタフガイに、保守層は強く引かれるんだ」

 共和党の選挙参謀アリス・スチュワートは、イーストウッドの演説後の大喝采が忘れられないと言う。「批判を恐れずミット・ロムニーを堂々と支持する姿は痛快だった」と振り返る。

 実際には演説は賛否両論だったが、イーストウッドは批判を楽々とかわした。映画のPR活動では保守派を喜ばせつつ、民主党支持者も味方に付けた。大統領候補顔負けの綱渡りだ。

 同性婚をしたコメディアン、エレン・デジェネレスのトーク番組に出演した際は、小さな政府と同性婚を支持すると語り、共和党大会についても快活に話した。「面白い反応だった」と、イーストウッドは言った。「民主党員は私がボケ始めたんじゃないかと疑い、共和党員はボケたと確信した」

 気の利いたひとことも忘れない。「両党とも選挙にカネを使い過ぎだ。酔いどれ船乗りじゃあるまいし......おっと、海軍を侮辱するつもりはないがね」

[2012年11月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、中国との貿易協定巡りカナダに警告 「1

ワールド

アングル:中国で婚姻数回復傾向続く、ドレス業界が期

ワールド

ウクライナ2都市にロシアが攻撃、和平協議直後

ビジネス

乳児ボツリヌス症の集団感染、バイハート社の粉ミルク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 3
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投稿したアメリカを嘲笑する動画にネット爆笑
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 8
    「これは違法レベル...」飛行機で「史上最悪のマナー…
  • 9
    トランプを支配する「サムライ・ニッポン」的価値観…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 9
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中