最新記事

働き方

「ワーケーション」「二地域居住」定着のカギは地方のモビリティー──ウィズコロナ時代の新しい働き方に応じた交通インフラ整備を

2020年8月19日(水)11時50分
坊 美生子(ニッセイ基礎研究所)

マイカーを用いて他人を有償で輸送することは、道路運送法で原則禁止されているが、自家用有償旅客運送は、事前に自治体の首長や交通事業者等が合意することや、ドライバーが通常の1種免許に加えて大臣認定講習を受講して安全を確保したりすることを条件に、例外的に認められている。

新型コロナウイルスが感染拡大する以前に、国は、自家用有償旅客運送を地方におけるインバウンドの移動の受け皿とする目算を立て、今年の通常国会で導入を円滑化する法改正を行った。想定外の新型コロナによって、インバウンドは一時的に姿を消しているが、代わりに地方で増えつつあるのが、都市部から仕事の拠点を移そうとするワーカーたちである。

筆者は研究員の眼「新型コロナ対策で見えてきた高齢者向けモビリティーサービス~貨客混載×自家用有償旅客運送と地方版MaaSへの可能性~」(2020年5月21日)の中で、地方において、この制度の導入を進めるべきだと主張した。そして、高齢者向けに飲食料の宅配サービスを実施したり、中期的には他の交通情報や観光情報、宿泊施設情報とも連携してシステムをデジタル化し、将来的にMaaS(Mobility as a Service)への昇華を目指したりすることを提案した。このコラムの中では、移動に困難がある地域の高齢者らに焦点を当てて述べていたが、都市部から地方を訪れるワーカーたちにとっても、同じサービスを実施することが利便性を高めるために有効だと考えられる。

ここで、自家用有償旅客運送の問題点を押さえておく必要がある。この制度は、従来から過疎地等における公共交通の補完手段とされてきたにもかかわらず、導入が進んでこなかった要因の一つには、登録ドライバーが受け取る収入が少ないため、担い手が少ないことがある。この制度では、輸送の対価はタクシー料金の半額程度が目安とされているためである。

しかし、ワ―ケーションや二地域居住のように、都市部から来訪するワーカーたちが乗客となれば、改善が期待できる。これまでのように地域の高齢者らを主な乗客と想定した場合、輸送範囲は自宅からや薬局、役所など近距離が多いと考えられたが、都市部から訪れるワーカーが乗客となれば、空港や近郊の観光地、人里離れたエリアの宿泊施設など、輸送範囲がより広範になると予想される。輸送距離が延びれば、ドライバーの収入が増え、担い手確保が今よりも容易になると考えられる。ただし、今後の推移を見守り、導入のハードルが依然高いようであれば、さらなる制度の見直しが必要となるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中