最新記事

教育

一企業・一業界の「特殊な経験」だけの人に、社会人教授は難しい

2019年3月4日(月)16時35分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

Masafumi_Nakanishi-iStock.

<グローバル化・IT化に対応していくために、大学には社会人教授が必要だ。だが、大学教授としての資質と資格に不適格な者も多い。「優れた社会人教授」とは何か>

大学進学率が50%を超えたわが国の大学は、ユニバーサル段階、すなわち、学びを求めるあまねくすべての人に向けた教育機関として、学問の探究とともに多様な教育サービスを提供することが求められる段階に入った。

選り好みしなければ誰でも大学に入れる「大学全入時代」の到来の一方で、少子化による「大学氷河期時代」は大学の経営を圧迫し、閉校に追い込まれる私立大学も現れた。

わが国を取り巻くグローバル化やIT化の進展は、大学も例外ではない。大学は新しい時代にどのように対応すればよいのであろうか。筆者は主に次の3点を指摘したい。

1)優れた社会人教授を大学に迎え入れることで、大学の教育・研究を活性化し、海外の著名教授を招聘して、大学をグローバル化すること。

2)社会経験だけで、定年退職後に大学に転職する定年余生型の不適格大学教授を排し、優れた社会人教授を育成してゆくこと。

3)社会人教授の採用に際しては、学位(博士号)と教育・研究業績を重視すること。

専門学校的な「学びの場」が認められたわけではない

大学は社会における知の集積拠点だが、「象牙の塔」であってはならない。そこで行われる研究は社会にとって有用なものでなければ大学の存在価値は無いだろう。

研究成果を社会に還元し、あるいは、大学生を優れた社会人として送り出す義務があるのである。このような社会に貢献する大学の姿の1つとして「産学共同路線」がある。産業界が大学を資金面で支援し、大学はその産業に有用な研究を行い技術面で貢献するというものである。

前回「社会人教授が急増しているのはなぜか──転換期の大学教育」で述べたように、一昨年5月、文部科学省は55年ぶりに学校教育法の一部を改正し、専門職大学・専門職短期大学の設置と両大学における専門職学科の設置が行えるようになった。

これは実践的な職業教育を高等教育機関でも実施できるようになったことを示したものである点で、新たな「産学共同路線」といってもよいだろう。こうした法律の改正により、専門職大学の申請を17の学校法人が行ったが、実は2019年に開設されるのは1校のみである。

他の16の専門職大学は認可されず、保留、ないし、再申請となったのである(朝日新聞 2018年10月5日)。これは学校法人側にカリキュラム編成や大学教員としての資格において問題があったからだ。学校法人が安易な実学教育の大学づくりを行おうとした結果である。

このことは何を意味するのだろうか。つまり、大学は実践的な職業教育という専門学校的な「学びの場」ではなく、あくまでも大学という高等教育機関としての実学教育なのである。「実践的教育」には、学問的な知識の裏付けが必要なのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、ウクライナ和平案の感謝祭前の合意に圧力 欧州は

ビジネス

FRB、近い将来の利下げなお可能 政策「やや引き締

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 7
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中