最新記事

キャリア

自己実現か社会貢献か、物質主義か非物質主義か──古い「転職」観は捨てよ

2018年7月30日(月)17時30分
松野 弘(千葉大学客員教授、現代社会総合研究所所長)

日本も第二次世界大戦以前は、貴族・官僚・経営者等が社会の上流階級で、農業従事・商人・労働者等は下流階級であった。同じ職種間の移動は可能であったが、下流階級から上流階級への移動はきわめて困難であった。

戦後の民主主義社会になり、経済的にも安定した高度成長期になると職業移動は安定化したが、経済のグローバル化が進展し、世界的にも景気が後退期に入る1990年代になると、サラリーマンの「転職率」(労働者に占める転職者の割合)が従来の3~4%前後から、5%以上へと次第に高くなってきた。

この背景には、高学歴化や自発的な職業選択、より報酬の高い職業を求める経済的な欲求の高まりなどがあげられる。

筆者の友人の中にも、より高い生活保障給を求めて、日本の企業から外資系の企業へ転身したり、日本の大手企業から外国の大手企業へ移ったりしていく者もいた。もちろん、まずは卓越した語学力が必要であり、その分野のエキスパートとしての能力がなければこうした転職は不可能だ。

ただ高い報酬を求めるのではなく、「人生四毛作」で転職を

一般に「転職」には、(1)仕事志向的(物質主義的)~金を稼ぐために転職する、(2)自己実現志向的(非物質主義的)~個人としての生きがいのある仕事(自己実現)を求めて転職する、(3)中間志向的(物質主義的+非物質主義的)~世の中に役に立つべく、社会的使命をもった仕事(有給の非営利組織等)に転職する、といったようなパターンがみられる。

「転職」といえば、より高い労働対価を求めて転職するのが基本であるが、報酬は低くでも生きがいのある仕事をしたいという、上記(2)のパターンが増えてきたのが最近の傾向である。

これまで日本人の職業意識においては「一社一生」という考え方が一般的であったが、今日では、人生は一回きりだから、自分のやりたい仕事をしようという人たちが増えていることは確かだ。大手企業のサラリーマンから、農業や漁業といった第一次産業への転身を図る人も最近では見かけるようになった。

いろいろな職業経験を経て、最終的に、自分のやりたい仕事をするというのがサラリーマンの理想である。「転職」はそのためのチャンスであり、修行でもある。こうした目的を達成していくためには、思いつきでやってもうまくいかない。

自らのライフデザイン(人生設計)を最初の就職時からきちんと決めておくことが大切だ。筆者は「人生四毛作」論を提唱している。就職時の22歳から定年時の60歳までの約40年間を10年ごとに区切って、「転職」することで、経験を積み重ね、最終的には自分のやりたい仕事をやるように目標設定することだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中