最新記事

キャリア

社会に出たら学ばない──日本人の能力開発は世界最低レベル

2018年3月19日(月)18時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

「インターネット時代だからこそ知識が重要」という認識が弱い

インターネットでほとんどの知識を得られるので知識を有することは意味がなくなったという意見をよく聞きます。これは日本だけでなく、世界中でいわれていることです。単なる丸暗記は意味がないという程度の意味であれば賛成です。しかし、知識は不要という意味であれば反対です。

たとえば、イスラム原理主義者によるテロを考える際、イスラム教に関する知識がないと何も議論できないのは明白です。インターネットで短時間検索した程度では正確、かつ深い知識を得ることはできません。原理主義的な考えを持つイスラム教徒の中でも、テロに走る人はごくごく一部です。そのことを知らないと、大きな偏見を持ってしまいかねません。

ここでいう知識とは、短期的で動的な情報に対して、長期的で静的なものを指します。そもそも情報と知識の区別には絶対的なラインがあるわけではなく、相対的である点には注意が必要です。新聞やテレビ、ソーシャルネットワークが情報、良質な書籍や大局的な視点を持った実務家・専門家の知見などが知識です。新聞でも長期的な視点を与えてくれる知識もある一方、書籍の中には一時的な価値しかないものもあります。

インターネットで多くの情報や知識が入手できる、デジタル革命といわれる変革の時代であるからこそ、知識がますます重要になっています。その理由を改めて整理しておきたいと思います。

第一に、さまざまな情報が錯綜する中で、コアとなる知識が定着していないと判断を誤ることが挙げられます。これは1章でも言及したとおりです。

たとえば、人類にとって大きな課題であるエネルギーの安定供給問題。原発については賛否両論ありますが、太陽光など再生可能エネルギーに関しても、蓄電で安定供給ができるという意見から、コスト高や供給量の不安定さのため安定供給は困難という見解までさまざまです。

この点について判断するには、エネルギー問題やエネルギーが経済に与える影響についてのコアとなる知識と、それに基づく洞察が不可欠であることはいうまでもありません。

第二に、スピード化する現在では、瞬発力の前提として知識が求められるからです。ビジネスの現場では瞬時に何らかの仮説を立てる必要に迫られます。たとえば、IoT(Internet of Things)に関する知識がないと、クライアントとの打ち合わせでビジネスモデルに関する臨時の仮説を立てることができず、話を進めることすらできないでしょう。

◇ ◇ ◇

こうした現状分析の後、本書で提唱されるのは「森羅万象に好奇心を持ち学ぼうとする習慣」「そのジャンルで異端とされる本を読む習慣」「外国の映画・ドラマを戦略的に見る習慣」「STEMを学ぶ習慣」「知識を深め、見識に高めるための『対話』の習慣」......。既存の知識に加えて、新しい知識をいかに学ぶかが問われる時代を生き抜くためのアドバイスだ。

※第2回:オフはとにかく休みたい、会話は仕事の話ばかり、という日本人


 『世界で通用する「地頭力」のつくり方
 ――自分をグローバル化する5+1の習慣』
 山中俊之
 CCCメディアハウス

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中