「日本の景気後退回避」「今後は政治巡るリスク」「金利に上昇圧力」...日米15%合意、識者12人の視点

2025年7月23日(水)17時38分

◎最善に近い合意内容、日本の景気後退は回避

<明治安田総合研究所 フェロー チーフエコノミスト 小玉祐一氏>

朝方に一報を聞いた時は参院選直後の合意ということもあり厳しい内容を想定したが、ふたを開けてみれば、最善に近い結果だったのではないか。8月1日から25%の相互関税がかかった場合、日本経済は深刻な景気後退に陥る恐れがあった。今回の合意内容であれば、経済の回復基調はぎりぎりで維持できるほか、食品価格の落ち着きなども背景に、実質賃金は一段と改善するだろう。日銀は年内の利上げを検討できる状況になると考えられる。

自動車メーカーをはじめ輸出企業は、引き続き関税コストの一部を負担することになるだろうが、為替市場でも10%程度の変動はよくあることだ。大手企業が経営危機に陥ったり、中小の下請け企業を中心に「関税倒産」が増加するような事態にはならないとみている。

日米交渉が進展した背景として、米国内の世論において、各国との交渉の遅れに対し厳しい見方が広がり始めたことから、トランプ政権が早めの成果を欲した可能性がある。また、足元で米国の物価の伸びがやや加速していることも影響したかもしれない。

日本の自動車メーカーが一律10%の値上げを実施しただけでも、米国の総合消費者物価指数(CPI)は単純計算で0.25%上昇する。多くの国や企業が同様の施策を取れば、無視できない上昇幅となる可能性もあった。

今回の関税合意を節目として、石破茂首相が退陣する展開もあり得るだろうが、すでにマーケットはある程度織り込んでいるので大きな影響はないだろう。例えば、次期首相として高市早苗前経済安全保障担当相を有力視する声が高まれば、自民党の政策が消費減税に傾くシナリオが意識され、長期金利が上昇し、円が売られる局面も出てくるかもしれない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

財政の信認揺らがない限りあらゆる手段使う=経済対策

ビジネス

午後3時のドルは153円後半で上げ一服、前日の急騰

ワールド

米国防長官、アジア各国と会談 安保協力強化で中国け

ワールド

米ロ首脳会談、ウクライナ巡るロシアの強硬姿勢で米が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中