最新記事

日本政治

岸田首相の的外れな政策が続くかぎり、日本人の給料は韓国や台湾よりずっと低くなる

2022年6月25日(土)16時25分
大前研一(ビジネス・ブレークスルー大学学長) *PRESIDENT Onlineからの転載
岸田文雄首相

6月21日に日本記者クラブで行われた党首討論会に出席した岸田文雄首相 David Mareuil / REUTERS


なぜ日本人の給料は上がらないのか。ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一さんは「岸田文雄首相は賃上げした企業に税制を優遇するというが、まったく的外れな政策だ。このままでは韓国や台湾に1人当たり名目GDPでも抜かれてしまう」という――。

※本稿は、大前研一『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

安倍元首相が残した「アベノミクス」という負の遺産

安倍晋三元首相が残した最大の「負の遺産」は、アベノミクスの失敗だ。

「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢を放ち、名目成長率3%と2年で2%の物価安定目標を掲げ、異次元の金融緩和を続けたものの、7年8カ月という任期をかけても達成することができなかった。

今や日本銀行(日銀)の総資産はGDP(国内総生産)の約1.3倍と、米欧をはるかに上回っている。

高騰する物価を落ち着かせるために、FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)は量的緩和の縮小に向けて舵を切り始めているなか、日銀は身動きがとれないでいる。

本来なら、日本も量的緩和縮小に向けた「出口戦略」の準備に入らなければならないはずだ。だが、日銀は国債を民間金融機関から買い取り、自ら貯め込むことで、事実上の財政ファイナンス(国の発行した国債などを中央銀行が直接引き受けること)を続けている。もし日本が量的金融緩和の縮小を始めれば、国債が大暴落して大変なことになる可能性が高いからだ。

政権は「3つの構造的問題」を理解していない

その結果、日本の国債残高は1000兆円を突破し、債務残高の対GDP比は256.9%(2021年)と先進国の中で突出している。少子高齢化で労働人口が減っているというのに、いったい誰がどうやってこの膨大な借金を返していくというのだ。

そうかといって、このまま金融緩和を続けても、経済のシュリンクに歯止めはかからない。国の借金は増え続け、行き着く先はデフォルト(債務不履行)だ。

自民党政権が日銀の金融緩和には効果がないことを理解していないことが、最大の問題かもしれない。

私がこれまでずっと言い続けているとおり、日本経済が低迷している3つの構造的問題は、少子高齢化と人口減少、そして日本が「低欲望社会」だからだ。若者は持ち家にも自家用車にも興味を示さず、将来が不安だと言って、20代のうちから貯金に励んでいる。一方で、高齢者は貯金があっても「いざというときのために」というよくわからない理由で使おうとせず、貯めた3000万円を使わないまま死んでいく。21世紀の日本はそういう国なのだ。

だから、みなが欲望をみなぎらせていた20世紀型の経済政策(低金利とジャブジャブのマネタリーベース)を実行しても、効果がないのは当たり前なのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中