最新記事

日本政治

岸田首相の的外れな政策が続くかぎり、日本人の給料は韓国や台湾よりずっと低くなる

2022年6月25日(土)16時25分
大前研一(ビジネス・ブレークスルー大学学長) *PRESIDENT Onlineからの転載

インフレ下でMMT理論はまるで通用しない

日米欧の消費者物価指数を見ると、2021年10月の段階で、アメリカ6.2%、ユーロ圏4.1%と明らかにインフレ基調だ。

しかもアメリカで進行しているのは、コストプッシュではなく、構造的なインフレであり、この先日本にも波及する恐れがある。

黒田東彦・日銀総裁やアベクロ推進のアドバイザーだった浜田宏一教授、そして元財務官僚で経済学者の高橋洋一氏のようなMMT理論の信奉者は「インフレは恐れるに足らず」というスタンスのようだが、私はMMT理論そのものがまやかしだと思っている。

MMTとは、Modern Monetary Theoryの略で、日本語でいう現代貨幣理論のことだ。政府が自国通貨建ての借金(国債)をいくら増やしても財政は破綻せず、インフレもコントロールできるのだから、借金を増やしてでも積極的に財政出動をすべきというのだが、これはどう考えてもおかしい。

MMTの論文を読むと、「インフレさえ起こらなければ」という但し書きがついているのである。

また、日本の国債の大半は日銀と日本の金融機関が保有しており、外国人の保有比率が低いので、今のところ金利は安定しているものの、借金であることに変わりはなく、いずれは誰かが返さなければならないのだ。

もし、アメリカのインフレが日本にも波及すれば、現在の国の過剰債務がどうなるかはわからない。もしかすると、これまで低欲望とデフレで表面化していなかった危機が顕在化するかもしれないのだ。

だから、これから先は長期金利の動きをはじめとした経済指標に注意し、同時に最悪の事態も想定して対策を立てておく必要がある。間違ってもMMT論者の楽観論を信じてはいけない。

「新しい資本主義」とは何かがよくわからない

2021年11月、総選挙で勝利した自民党総裁の岸田文雄氏が、第二次岸田内閣を発足させた。

岸田首相が所信表明演説でとくに強調したのが「新しい資本主義」と「成長と分配」という言葉である。

ただ、所信表明演説を何度読んでも、新しい資本主義とは何かがよくわからない。そもそも「新しい資本主義」という言葉を打ち出すならば、それまでの古い資本主義は何なのかを定義しなければならないはずだが、それもない。それどころか、どうやら岸田首相は資本主義も経済もきちんと理解していないようなのだ。

たとえば、成長だけでなく分配も大事なのだと言うが、日本は分配ができていないのかというと、そんなことはないのである。

主要国の上位1%の富の保有者の割合をみると、一番大きいのはロシアで58.2%、次がブラジルの49.6%で、インド40.5%、アメリカ35.3%と続く。日本は18.2%で、主要国では最も小さい。つまり、日本は富の集中度が低い、分配の行き届いた国なのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁設立が大幅遅延

ワールド

韓鶴子総裁の逮捕状請求、韓国特別検察 前大統領巡る

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

首都圏マンション、8月発売戸数78%増 価格2カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中