最新記事

世界経済

ロシアのウクライナ侵攻がアフリカを翻弄 パーム油高騰が生活直撃

2022年5月4日(水)12時53分
コートジボワールの中心都市アビジャンの屋台

アビジャンでジェネバ・ベレムさんが営むフライドビーンケーキ(豆を使った揚げ物)の屋台は、パーム油の価格高騰という形で戦禍に翻弄されている。写真はアビジャンの屋台。4月12日撮影(2022年 ロイター/Luc Gnago)

アフリカのコートジボワールはウクライナから遠く離れている。しかし、実質的首都のアビジャンでジェネバ・ベレムさんが営むフライドビーンケーキ(豆を使った揚げ物)の屋台は、パーム油の価格高騰という形で戦禍に翻弄されている。

「もう売るのをやめたいと思うくらい。だって油の値段がこんなに上がったら儲けが無くなってしまう」。鍋の中の揚げ物をかき回しながらベレムさんは語った。

ロシアもウクライナも、熱帯の産物であるパーム油の生産国ではない。しかしロシアによるウクライナ侵攻は、複雑に絡み合った現在の世界経済にドミノ倒しのように影響を広げている。

戦争を一因としてパーム油の価格は過去最高値に跳ね上がった。パーム油はナイジェリアのジョロフライス(ピラフ)からコートジボワールのバナナフライまで、アフリカの食卓には欠かせない食材だ。

パーム油の輸出国インドネシアはこのほど、国内のパーム油価格の高騰を抑えるために輸出禁止に乗り出した。

「こんな状況に直面したのは初めてだ」と語るのは、農産物コンサルタント会社、LMCインターナショナルの創設者、ジェームズ・フライ氏。「衝撃をまともに食らうのは、大国の最貧困層やアフリカ諸国だろう」と言う。

実際、アフリカのサブサハラ(サハラ砂漠以南)では、家計支出に占める食費の割合が既に40%に達している。この割合は世界のどの地域よりも高く、先進国の17%に比べると倍以上だ。

燃料を含む幅広い価格が急上昇し、新型コロナウイルスのパンデミックによってアフリカで数千万人が極度の貧困に追いやられているところに、パーム油の価格高騰が加わったことで、多くの人々は厳しい選択を迫られるだろう。

ケニアの首都ナイロビで美容業界コンサルタントとして働くルーシー・カマンジャさんは、パーム油を使った調理油の価格が90%も上がったため、果物や生活必需品代を削らざるを得なくなった。

「本当に心配。食品価格が2倍ぐらいに上がってしまい、これからどうなってしまうのか」とカマンジャさん。「どうやって食いつないでいけばよいか」と嘆いた。

ひまわり油も

ロシアのウクライナ侵攻以前から、インフレは世界的な懸念事項だった。国連食糧農業機関(FAO)によると、昨年の食品コモディティ価格の上昇率は23%強と、過去10年余りで最も高かった。

3月のFAOの世界食料価格指数(食肉、乳製品、穀物、砂糖、油)は前月比12.6%も上昇し、指数公表が始まった1990年以来の最高を記録した。

中でも食用油は大きな打撃を被った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中