最新記事

世界経済

ロシアのウクライナ侵攻がアフリカを翻弄 パーム油高騰が生活直撃

2022年5月4日(水)12時53分

アルゼンチンの大豆油輸出とカナダの菜種油生産は、干ばつによって壊滅的な影響を受けた。インドネシアの悪天候と、新型コロナ対策としてのマレーシアの入国制限措置は、パーム油生産を圧迫し、大農場で人手不足を招いた。

LMCのフライ氏は「唯一の光明がひまわり油だった」と話す。

ところがロシアが2月、ウクライナに侵攻すると、黒海地域からのひまわり油の出荷が滞り、世界の供給の大部分が消えた。この地域は世界のひまわり油生産の60%、輸出の4分の3以上を占める。

泣き面に蜂だったのは、やはり戦争の影響による原油価格の高騰だ。バイオ燃料の需要が増え、植物油の供給がさらに圧迫されたからだ。

「表現のしようもないほど悪い状況だ。最悪の事態に近い」とフライ氏は語る。

パーム油の世界指標であるマレーシア産パーム原油価格は、年初から50%近く上昇している。

農家には恩恵も

多くの貧しい国々では、パーム油は経済性の観点からも好んで使われてきた。長年の間、主な植物油の中で最も安かったからだ。

しかし世界銀行のデータを見ると、最近は他の植物油、特に大豆油やひまわり油並みの価格に近づいている。

3月には一時、インドの4つの主要な食用油の中でパーム油が最も高くなった。アフリカで中心的に使われるパーム油が、最も安い食用油だと安心して言える時代が終わりを告げるのかもしれない。

ただ、パーム油価格の高騰はアフリカにチャンスをもたらす面もある。

アフリカでは約20カ国がアブラヤシを育てており、農地面積は計600万ヘクタール近くに及ぶ。農業セクターにおける雇用の主な担い手でもあり、価格上昇は所得アップにつながるはずだ。

アビジャン郊外でパーム油の精製所を営むシルベイン・ンチョさんは、過去1年間に売上高が20%前後増えた。「パーム油価格の上昇で潤っているのは私たちだけではない。恩恵の一部は農民にも向かう」とンチョさんは語った。

コートジボワールの街、アディアケ近くで農場を営むジェローム・カンガさんは3年前の生産開始時、価格の安さにがっかりした。だが「12月以降、特に2月と3月に入ってから面白くなってきた。ざっと20%ぐらい(収入が)増えた」という。

客から苦情

しかしパーム油の上昇で追い風を受ける人の数は、困窮する人の数に比べれば取るに足りない。

アフリカ諸国のパーム油消費量は生産量を大幅に上回る。世界市場を支配しているのは東南アジアだ。

ナイジェリアのラゴスで小さな食品店を経営するアン・オバニーさんは、レッドパーム油の仕入れ値がこの1カ月だけで約20%も上がったと話す。「まるでうちが値段をつり上げているみたいに皆から苦情を言われる。うちは仕入れ値に沿って売っているだけなのに」

(Ange Aboa記者 Joe Bavier記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア戦車を破壊したウクライナ軍のトルコ製ドローンの映像が話題に
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・【映像】ロシア軍戦車、民間人のクルマに砲撃 老夫婦が犠牲に


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア西部2州で橋崩落、列車脱線し7人死亡 ウクラ

ビジネス

インフレ鈍化「救い」、先行きリスクも PCE巡りS

ワールド

韓国輸出、5月は前年比-1.3% 米中向けが大幅に

ワールド

米の鉄鋼関税引き上げ、EUが批判 「報復の用意」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 8
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 9
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 3
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 4
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中