人間には簡単だが機械には苦手なこと、その力を育むものこそ「数学」だ

2021年11月18日(木)11時54分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ピ: AIという言葉は1956年のダートマス会議で名付けられたと言われているんやけど、まあコンピュータが発明されたのが1940年代や。初期のコンピュータは工場ぐらいの大きさで毎秒数百回の計算しかできんかったんやけど、それでも人間と比べたらすごいスピードや。そしてどんどん性能が上がっていくので「これはもしや、人間と同じように物事を考える機械もできるかもしれん!」とみんなが考え、期待しても不思議はあらへん。コンピュータの進歩のスピードを見ると、鉄腕アトムみたいなロボットができるのもそんなに遠い未来ではないように思えた。

ところがや。

環: ところが、コンピュータ自体は進歩を続け、その処理能力の上昇具合はむしろスピードアップしていくのに、AIはその後何十年経っても、あまり期待された進歩をしませんでしたね。

ピ: せや。50年も60年も、AIは冬の時代やったんやな。その理由として、人間には簡単だけどコンピュータには意外と難しい分野がいくつかあったんや。

環: コンピュータには意外と難しい分野?

ピ: 有名なのは、まずは「巡回セールスマン問題」やろか。これは、「セールスマンがいくつかの都市を回ってセールスしなければならないとき、いちばん効率的な訪問順を求めなさい。」ちゅうやつや。コンピュータで簡単に検索できそうやろ?

都市が2つなら、訪問順はA→BとB→Aの2通り。この2通りのうち、効率的なほうを選べばええ。都市が3 つなら、順番はA→B→C、A→C→B、B→A→C、B→C→A、C→A→B、C→B→Aの6通り。この6通りを調べて、いちばん効率的なのを選べばいいだけや。簡単そうやろ?

ところが、都市数が増えると、考えるべき訪問順が爆発的に増えてしまう。30都市になると、パターン数は30階乗! およそ2.6×10 32 通りや。これがどれくらいの数かというと、1秒間に1000億回計算しても2.6×10 21 秒かかる。年に直すと84兆年やで! 宇宙ができてからまだ138億年しか経っとらんから、宇宙の歴史を6000回繰り返す必要がある! コンピュータがどれだけ進歩しても絶望的や。

環: 指数や階乗って、本当に直感がついていかないほど凄まじい増加スピードになるんですよね。

ピ: ところがや、コンピュータに計算させるとこんな風に絶望的やけど、実際のセールスマンはたいして困っとらんやろ。宅配便の配達員になったことを想像してもええ。今日配達すべき荷物が30個あったとき、なるべく短時間で配達を終えたいよな? この最適な順番をコンピュータに計算させると宇宙の歴史を6000回繰り返さなあかんけど、実際配達に行けば数時間で終わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド総合PMI、10月は59.9 5カ月ぶり低水

ビジネス

メイ・モビリティに配車グラブが出資、東南アジアでロ

ワールド

カタール、ガス生産国に貿易障壁反対を呼びかけ

ビジネス

中国系電池メーカー、米工場の建設断念 ミシガン州が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中