最新記事

中国撤退

中国進出の日本企業は、極めて苦しい立場に立たされている

THE XI SQUEEZE ON CEOS

2021年10月12日(火)18時15分
ビル・パウエル(ワシントン)
習近平国家主席

CHIP SOMODEVILLA-POOL-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<「どの程度のリスクを取るのか」と、本誌取材にサントリーの新浪社長も語った。通商摩擦、サイバー攻撃、人権問題......。中国とアメリカや同盟国の対立が激化し、世界の企業は難しい選択を迫られている>

米国家安全保障局(NSA)はその攻撃を直ちに察知していた。

3月、マイクロソフトの企業向け電子メールソフト「エクスチェンジサーバー」が大掛かりな不正侵入を受けると、NSAはそれから数時間もたたずに、このサイバー攻撃が中国発のものだと突き止めた。

中国はこれまで、アメリカ企業のコンピューターシステムに侵入して知的財産を盗むつもりはないと繰り返し主張してきた。習近平(シー・チンピン)国家主席も2015年9月、当時のバラク・オバマ米大統領に、サイバー商業スパイ行為を行わないと約束した。

この言葉は嘘だった。米政府の忍耐は限界を超えていた。

バイデン政権は差し当たり新たな対中制裁には踏み切っていないが、日本などの主要同盟国と連携し、7月には中国のサイバー攻撃を一斉に非難した。

日本やヨーロッパ諸国の政府は、米政府の動きを歓迎した。

「サイバーセキュリティーに関しては、アメリカだけでなく、同じ考えの国々とも緊密に連携する」と、日本の菅義偉首相(当時)は東京五輪期間中に本誌の独占インタビューで語っていた。「官民一体の取り組みになるだろう。アメリカとの間ではハイレベルな機会を活用したい」

magSR20211012thexisqueezeonceos-2.jpg

中韓の対立のあおりを受けたロッテは中国事業を大幅に縮小(2019年3月に閉店した天津の百貨店) ZHANG PENG-LIGHTROCKET/GETTY IMAGES

中国政府とほかの国々の政府の間で緊張が高まっていることで、企業にとってはただでさえ難しい中国ビジネスが、いっそう難しくなっている。日本経済は中国経済と密接な結び付きがあるため、日本企業は極めて苦しい立場に立たされている。

日本が過去30年間で行った対中直接投資は総額1400億ドルを突破。日本の対中貿易額は対米貿易額を上回っている。この点では、東アジアにおけるアメリカのもう1つの重要な同盟国である韓国も同様だ。

1979年に当時の最高指導者である鄧小平が中国経済の門戸を世界に開放して以来、中国は世界のビジネス関係者にとって「約束の地」だった。

最初は安価な労働力の無尽蔵の供給地として、のちには巨大な消費市場として、その魅力は絶大だった。世界の企業は「チャイナ・ドリーム」を抱いてきたのである。

その「ドリーム」は、ある程度まで実現したと言えるだろう。しかし通商問題と人権問題をめぐる摩擦が強まり、いま対中ビジネスは困難を極めている。ビジネス界は21世紀版の冷戦に巻き込まれているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中