最新記事

統計

失業率と平均時給が「同時に上昇」──コロナ不況の米労働市場で何が起きていたのか

2021年7月8日(木)12時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
コロナウイルスとUSドル

Atlas Studio-iStock

<通常、景気の悪いときには失業率が上昇し、平均時給は低下する──しかし、2020年4月に米国労働省が公表した雇用統計では、いずれも上昇するというイレギュラーが起こった。この現象を、統計学のトリックを使って読み解く>

「感染者数は指数関数的に増加している」「実効再生産数が1を上回った」──新型コロナウイルス感染症をめぐる日々の報道により、これまでの日常生活で聞かれなかった専門用語や情報を耳にする機会が増えた。

指数関数(y=aのx乗)のように1つの変数(x)に対してもう1つの変数(y)が飛躍的に変化していくことを「指数関数的」と表現するが、コロナ感染者数の増加は理論的には指数関数で表すことができるためこのように表現される。また、1人の感染者が平均して何人に感染を広げるかを示す数値のことを「実効再生産数」といい、感染者数増加の勢いを決める重要な数値である。そうした言葉の背後には感染拡大の勢いを予測するための数式があり、それをもとにして専門家たちが対策を講じている。

感染症対策の例に限らず、現代社会のあらゆる事象を数学思考で考えることができる。

テクノロジーの発達は膨大なデータの収集とその分析を可能にしたが、データや分析結果をどう解釈しビジネスへ活用するかの判断は今なお人に委ねられている部分だ。今後AI技術が発展してもビジネスの世界での数学理解の必要性は変わらないどころか、ますます重要になると言っても過言ではない。

『数学独習法』(講談社現代新書)を上梓した冨島佑允氏は、大多数のビジネスマンに必要なのは全体感の理解であって、複雑な方程式を解く力や計算能力ではないと述べる。

金融の世界で数学を駆使してビッグデータを扱う著者に、数学嫌いで避けてきた文系編集者が何度もわかるまで聞いてつくったのが、大人のための数学入門書である本書だ。この本で紹介される4つの分野(代数学、幾何学、微積分学、統計学)から、物事の傾向を大きな視点でとらえるために必要な統計学について一部抜粋し、掲載する。

(編集部注:記事化にあたって、一部本文に変更を加えています)

◇ ◇ ◇

統計学で世の中を掘り下げる

平均年収、平均労働時間、平均寿命など、いろいろなものの平均値が新聞などで取り上げられ、社会の動向を表す目安の数字として扱われています。平均値は簡単なようでいて意外と奥が深いため、平均値についての思考を掘り下げれば、世の中の出来事をより深く理解することにつながります。

例として、新型コロナウイルスの感染拡大によって起きた不思議な現象について紹介したいと思います。

statistics5_8.jpg

『数学独習法』(講談社現代新書)259ページより

図5-8にあるように、米国労働省が毎月公表している雇用統計では、米国での感染拡大を受けて2020年4月に失業率が急上昇しました。一方、労働者の平均時給の前月比増減率を見てみると、こちらも4月に急上昇しています。通常、景気の悪いときは失業率が上昇する一方で平均時給は低下し、景気の良いときは逆のことが起きるのですが、このケースはそのどちらにも当てはまらず、失業率と平均時給が共に上昇しています。何が起きていたと思いますか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イランの報復攻撃にさらされるイスラエル、観光客4万

ビジネス

レアアース磁石確保に苦慮とフォードCEO=ブルーム

ワールド

カンボジア、タイとの国境紛争で国際司法裁判所に解決

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕と報道 標的リスト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中