「東京五輪は中止の方が日本経済に吉」 株式市場、開催のリスクを重視
五輪開催といえば、金融市場では「景気浮揚効果から株価にはプラス」というのが定石だった。都内で18日撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)
五輪開催といえば、金融市場では「景気浮揚効果から株価にはプラス」というのが定石だった。しかしコロナの感染が収まらない中、既に1年延期された東京五輪は、追加的な経済効果が乏しいだけでなく、政局への影響や感染拡大懸念から株式市場の重しとなりやすく、開催を延期・中止した方が日本株にプラスに働くとの見方が、ここにきてマーケットで急浮上している。
政治リスクに敏感な海外投資家
市場関係者が懸念するのが、反対の声が強い国内世論を押し切って開催した場合の政権への影響だ。各社世論調査でも既に菅政権の支持率が低下している中、開催を強行すれば総選挙を前に政治が不安定化するリスクが高まる、との見る向きが多い。
こうした政治リスクにとりわけ敏感なのが海外投資家だ。日本取引所グループの統計によると、海外投資家は5月第2週に現物・先物合計で1兆円以上の日本株を売却し、昨年3月初め以来の大幅売り越しを記録した。
クレディ・スイス証券副会長で経済調査本部長の白川浩道氏は、海外のリアルマネー投資家から日本の政治リスクに関する問い合わせが増えていると語る。「日本株は2月半ばから3カ月もアンダーパフォ―ムしており、欧米だけでなく、新興国のソブリン系投資家など、日本株に首をかしげる投資家が増えている。まだ本格的に売り始めているわけではないが、日本市場個別のリスクとして、コロナ対策に失敗して政治が大きく変動するリスクがどの程度あるのか評価している段階だ」という。
五輪なければ日経3万2000円
また、ワクチン接種率が他の先進国に比べ大幅に低い中で五輪が実施された場合、開催に伴って感染が再び拡大する懸念がつきまとう。西村証券の門司総一郎チーフストラテジストは、「五輪が再延期もしくは中止となれば、あく抜けして日本株は買われるのではないか。それが決まれば政府としても感染対策に注力できる。五輪がなくなれば、日経平均は3万2000円くらいまで上昇するのではないか」と予想する。
東京五輪開催に伴う政治的・社会的リスクをそれほど重視しない投資家も存在するが、それでも、五輪が市場にもたらす追加的メリットがほとんどない、というのは市場関係者の一致した見方となっている。