最新記事

コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学

消費者が思うより物価は高い(コロナ不況から家計を守る経済学)

BEHAVIORAL ECONOMICS

2020年5月27日(水)12時20分
ジョナサン・ハートリー(エコノミスト、米議会両院合同経済委員会・元上級政策顧問)

Drazen Zigic-iStock.

<投資判断から公的政策まで、コロナ対応に役立つのが行動経済学。家計や事業を守るためには何を知っておくと便利か。「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集の記事「ポストコロナを行動経済学で生き抜こう」から一部を抜粋>

※この記事は「コロナ禍での『資産運用』に役立つ行動経済学(3つのアドバイス)」の続きです。

消費者が思うより物価は高い点に注意

日常的に買う商品の価格を覚えておこうという気にはなかなかならないのが現代という時代だ。アマゾンに代表されるオンラインストアはクリック1つで買い物ができて便利だが、価格はアマゾンのアルゴリズムによって大きく上下する。おかげで多くの商品で、決まった価格帯というものが存在し得なくなっている。
20200602issue_cover200.jpg
昔の人であればものの価格をきちんと記憶し、財布の中にどのくらいの現金を入れておかなければならないか正確に把握していただろう。だがクレジットカードとデビットカードが普及したせいでその必要もなくなってしまった。

しかも商品の種類や数が増えたために、日常的に買う品物の価格を記憶することはさらに難しくなっている。なにせ消費者の記憶力には限界がある(情報処理能力などの限界により人間は必ずしも完全に合理的な行動をしないという「限定合理性」の問題もある)。経済学者のジェームズ・ベッセンによれば、食品雑貨店で扱われる商品の種類は80年前に比べて50 倍に増えているという。

私がアメリカのテレビで長年放映されてきた値段当てのクイズ番組『プライス・イズ・ライト』を行動経済学的に分析したところ、時代とともに出場者(つまり消費者)は日常的な商品の価格をきちんと答えられなくなっていることが分かった。1970年代には実勢価格とのずれは1桁だったのに、2010年代には実勢価格より20%も低い額を答えるようになっていたのだ。

人々が価格に対して無頓着になったために、消費者のインフレ期待が必要以上に弱められている可能性もある。それに伴い、中央銀行がインフレ期待を引き上げることを意図した金融緩和策を通してインフレ率を上げることも難しくなっているかもしれない。

こうした状況は一般の消費者にとって何を意味するのだろう。まず、スーパーで買うような日常的な商品の価格は、自分が意識するよりも実際には高い可能性がある。それを肝に銘じて予算を立てるのが賢明だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中