最新記事

緊急経済対策

「緊急事態宣言」延長で未曽有の危機に 動き鈍い安倍政権の経済対策

2020年5月1日(金)20時11分

新型コロナウイルスに対応した緊急事態宣言について安倍晋三首相は1日、1カ月程度の延長を表明した。エコノミストの間では、今年度はリーマンショック時を超えるマイナス成長との見通しがほぼコンセンサスとなり、政府内でも成長悪化は底が見えない状況との認識が広がる。写真は4月27日、東京駅丸の内口で撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

新型コロナウイルスに対応した緊急事態宣言について安倍晋三首相は1日、1カ月程度の延長を表明した。エコノミストの間では、今年度はリーマンショック時を超えるマイナス成長との見通しがほぼコンセンサスとなり、政府内でも成長悪化は底が見えない状況との認識が広がる。期限延長に対応する新たな事業者支援はまだ打ち出されておらず、批判も高まっているが、予備費の活用や追加支援の議論が水面下で進行中だ。

経済損失、未曾有の規模に

緊急事態宣言が1カ月延期となれば、経済は未曾有の落ち込みになるとみられている。

三菱UFJモルガンスタンレー証券・副所長の鹿野達史氏は、個人消費は延期により20兆円減少し、20年度成長率はマイナス3.9%になると予測する。リーマンショック時、08年度のマイナス3.4%を上回る落ち込みとなる。これまでの経済対策の押し上げ効果2.9%では足りず、さらに10兆円規模の追加支出が必要と試算する。

BNPパリバ証券では20年度の成長率をマイナス6.3%と予測する。資金繰り支援や協力金などの政策でも、倒産や失業は増加し、悪影響の二次的波及が強まる。7─9月期に事業が再開し、反動増でGDPが大幅な伸びとなっても、その水準は今年1-3月に及ぼない、と指摘する。

感染が終息した後、政府が望むV字回復を期待する声は今やほとんど聞かれなくなった。

世界の経済回復に遅れをとらずに迅速に回復していくには、事業者や雇用者がすぐに復帰できる体制を維持しておくことが必要になる。

第一生命経済研究所の首席エコノミスト、熊野英生氏は、経済損失をできるだけ抑えるには、各自治体が休業要請の範囲を限定し、延長に伴って、休業補償・家賃援助を充実させることがポイントだと指摘する。企業が潰れてしまっては、雇用調整金の拡大も意味がなくなり、国民生活や街の衰退にもつながりかねない。

宣言延期と対応策、動き鈍い政府

こうした中、政府与党からも「緊急事態宣言の延長は5月末までが限界だ。日本経済が持たない」と、危機感をあらわにする声が出ている。何の追加支援も打ち出されぬままでは、事業者や雇用者の「息の根」を止めることになることになりかねないからだ。

ただ、安倍晋三首相自身は28日の参院予算委員会で「(緊急事態宣言が)ある程度の期間延びたとしても、今回の補正で対応させていただきたい」と回答。予算成立前で、次の対策への言及には慎重だったこともあり、野党や知事からの批判を招く結果となった。

大阪府の吉村洋文知事は30日、緊急事態宣言が延長される見通しとなったことについて、「宣言を延長するなら(休業要請している事業者への)補償をきっちりやらないと無責任だ」と指摘。「ただ延長となれば国民にとってあまりにも酷だ」と述べた。

野党は28日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2割以上減収した事業者の家賃を支援する法案を衆院に共同提出。主要野党は家賃猶予の関連経費5兆円を、20年度補正予算に計上するよう要求していた。


【関連記事】
・「中国製の人工呼吸器は欠陥品」イギリスの医師らが政府に直訴状
・韓国そして中国でも「再陽性」増加 新型コロナウイルス、SARSにない未知の特性
・東京都、新型コロナウイルス新規感染46人確認 都内合計4152人に
・新型コロナウイルス感染症で「目が痛む」人が増えている?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国紙「日本は軍国主義復活目指す」、台湾有事巡る高

ワールド

ドイツ予算委が26年予算案承認、経済再生へ高水準の

ビジネス

サファイアテラ、伊藤忠商事による伊藤忠食品の完全子

ワールド

マクロスコープ:高市氏、賃上げ「丸投げしない」 前
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中