最新記事

ポストコロナを生き抜く 日本への提言

パンデミック不況が日本経済にもたらした「貸し手不足」問題

GONE WITH CORONA

2020年5月1日(金)16時40分
リチャード・クー(野村総合研究所チーフエコノミスト)

また今回の不況を過去との対比で見ると、1990年のバブル崩壊から直近までにおける日本経済の最大の問題は、貯蓄をする人は多数いるのに、それを借りて使う人がゼロ金利でも不足していたことであった。しかし一国の経済は、誰かが貯金や借金の返済をしていれば、別の誰かがそれを借りて使わないと回らない。

この借り手不足の1つ目の原因は、借金でファイナンスされたバブルの崩壊によって多くの借り手のバランスシートが毀損し、債務だけが残った彼らがゼロ金利でも一斉に借金の返済を優先したことだった。

このバランスシート不況に対し、日本政府は自らカネを借りて使うことでバブル期のピークを上回る水準のGDPを維持させてきた。この政策により所得を維持した企業や家計が借金の返済を進めた結果、民間のバランスシート問題はおおむね解消された。ただ20年近くかかったこの苦しい借金返済の経験から、企業には借金に対する拒絶感が残った。

借り手不足の2つ目の原因は、今や多くの日本企業にとって、国内で投資をするよりも、新興国で投資をするほうが、資本のリターンがずっと高くなっているという事実である。実際に、フィリピンやバングラデシュの賃金は日本の10分の1であり、そのようななか日本国内で投資を増やすことは、多くの企業にとって正当化しにくくなっているのである。

このような状況下で国内投資を増やすには、国内における資本のリターンを上げる減税や規制緩和が必要だが、それらはなかなか進まず、日本経済には閉塞感が漂っていた。

借り手に加えて貸し手も不足

今回のパンデミックは、この借り手不足の問題に、貸し手不足という問題を新たに加えることになった。貸し手不足は、売り上げが激減した多くの企業が貯蓄を取り崩して必要な支払いに充てていることと、今のうちに手元資金を増やしておこうという「後ろ向きの借り入れ」が増えたことから発生している。

その結果、これまで貯蓄や借金返済でジャブジャブだった金融市場は一気に引き締められており、実際に日本を含む一部の国では、中央銀行が必死で金利を低く抑えているにもかかわらず、企業の借り入れ金利が急騰してしまっている。

借り手不足に困っていたのだから、貸し手がいなくなったことで問題は相殺される、ということにはならない。これまで日本政府や金融業界が求めていたのは、新規事業に必要な資金などを求める「前向きな」借り手だ。ところが前述のとおり、いま増えているのは当座をしのぐための「後ろ向きの借り手」であり、そうした資金需要に対しては金融業界も及び腰になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中