最新記事

航空業界

新型コロナで激変する世界の航空業界、その未来は中国が決める

The Airline Industry Will Change Forever

2020年4月18日(土)13時00分
クライブ・アービング(航空ジャーナリスト)

対照的に、その他の国の航空会社は市場の力によって運命を左右される。例えばアメリカの大手航空3社(ユナイテッド航空、アメリカン航空、デルタ航空)は過去10年で中国への路線を積極的に増やし、大いに潤ってきた。しかし今後はゼロからの再出発を強いられる。2月以来ストップしている中国行きのフライトを再開するには、しかるべき需要の回復を見届ける必要がある。

ところが需要回復のカギは中国側が握っている。海外渡航需要はアメリカよりも早く回復するだろうが、中国政府は(アメリカへの中国人客の渡航制限を継続するなどして)需要の回復ペースをコントロールできる。同じことは、中国へのフライトを一時的に止めている日本などの航空会社にも言える。

国際線の路線図に変化が

そんな状況を変えたくても、今のアメリカ政府には打つ手がない。中国が世界の航空業界を牛耳ろうとするのを、ただ見ているしかない。

アメリカの著名な航空アナリストのリチャード・アブラフィアは業界誌エビエーション・ウィークに、こう書いている。「この危機は、既に悪化していた中国とアメリカおよび西側諸国との関係をさらに悪くした。この危機を乗り切った先には経済面のナショナリズムの高まり、欧米系サプライチェーンの中国離れの加速があるだろうから、中国はますます自国中心の未来図を描こうとする可能性がある」

つまりアメリカが世界を導く役割を放棄し、保護主義の殻に閉じ籠もろうとするのを尻目に、中国はアジアのみならず世界中で空の旅の在り方を支配できることになる。しかも今は、国際線の路線図が大きく描き換えられようとしている時期だ。

伝統的な航空会社にとって、最大の収益源はビジネスクラスを利用する顧客だった。だからビジネス客を囲い込むサービスの充実を競ってきた。しかしパンデミック後の世界では、この客層は便利なビデオ会議システムに奪われる可能性が高い。海の向こうの現地まで行かなくても商談はでき、それが時間の短縮や経費の削減にもつながることが分かった以上、わざわざビジネスクラスで出張する必要性は薄れる。

格安航空会社(LCC)の前途も厳しい。複数のLCCが破綻し、撤退を強いられるかもしれない。2年後ぐらいには淘汰が進み、生き残れるのは最強・最大の会社だけかもしれない。

さらに、歴史的な文脈で実に興味深い変化も起きつつある。現在の国際線の路線図は基本的に、ジェット機の時代が始まった1960年代と変わっていない。ニューヨークからロンドン、フランクフルト、カイロ、デリー、バンコク、香港、東京、そしてシドニーと、いわゆる「ハブ空港」を赤道のように地球を一周する形で帯状に並べたスタイルだ。

しかし、これからは変わる。今回のパンデミックが始まる以前から、中国の主要8空港の利用客は年間4億8200万人を超えていた。そしてその多くは、ハブ空港で国際線へ乗り継いでいた。最大で500人くらいは乗れるジャンボ級の大型機で主要なハブ空港まで行き、そこから他の都市へは中・小型(通路が1つで横一列6席程度)の飛行機に乗り換えて飛ぶ。ただし乗り継ぎは面倒だから、たいていの客は目的地まで直行便で飛びたいと思っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大

ビジネス

中国、来年の消費財下取りに89億ドル割り当て スマ

ワールド

カンボジアとの停戦維持、合意違反でタイは兵士解放を

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席とサプライチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中