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危機管理

新型コロナウイルス、感染ショックの後に日本を襲う4つの最悪シナリオ

2020年2月28日(金)17時30分
岩崎博充(経済ジャーナリスト) *東洋経済オンラインからの転載

打つ手を持たない日銀のために必要なのは、政府はイタリアや韓国がやったような積極的な感染症対策だろう。厚生労働省が、新型コロナウイルスのPCR検査の保険適応をいまだに認めていない現状は、感染者を野放しにしておくのと一緒だ。

【シナリオ④】
日本の「武漢化」で全土が封鎖!健康保険、年金資金が枯渇する?

このシナリオが最悪のケースと言える。安倍政権の対応が遅れて、日本に感染爆発が起こり、医療システムが崩壊。日本のあちこちが中国・武漢と同じような状況になってしまうというシナリオだ。サプライチェーンの停滞で海外からの物流は途絶え、食糧不足などの物資不足に陥ることになる。

それどころか、日本中で企業活動が滞り、観光や娯楽といったサービス業も壊滅的なダメージを受けることになりかねない。海外からのヒト、モノ、マネーも遮断され、日本の輸出入もストップしてしまう。日本経済にとっては、まさに正念場となり、株価は底なしで下落する可能性がある。

ちなみに、医療システムの崩壊が指摘されている武漢市の致死率は4.9%、中国全体の平均致死率2.1%を大きく超えている。国土が狭く、人口密度の高い日本で感染爆発が起これば、まさに大惨事になるわけだ。

日本で限定的な感染爆発が起きた場合、経済的な損失は計り知れない。ただ、東日本大震災があった2011年のGDPは、震災被害の規模を16兆~25兆円、GDPを最大0.5%押し下げると、当時の内閣府が震災直後に発表した。

実際には、2011年度のGDPはプラス0.4%となり、かろうじてプラスを保っている。リーマンショックは、2008~2009年にかけて最大マイナス3%程度まで下落しており、金融危機のほうが実体経済に与える影響は大きいことを物語っている。

一方、新型コロナウイルスの感染爆発は別の不安を生み出す。医療システムの崩壊など国民の生活が壊滅的なダメージを受ける可能性があるのだ。

日本で感染爆発が起これば株価が大暴落し、その株式市場に莫大な資金を投資していた年金資金などクジラと呼ばれる公的資金が致命的な打撃を受ける。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も莫大な損失を出してしまうかもしれない。

高齢者の生活を支えている年金制度が資金不足となり、年金制度の崩壊=国民の生活が破綻するということだ。

「自民党」が戦後初めて迎えた試練

本来であれば、もう少し具体的な数字やシミュレーションを通して、最悪のシナリオを示したいのだが、現在の状況ではあまりにも不透明な部分が多く、将来の見通しが立たない。ひょっとしたら来月の今頃は、感染者数が激減して通常どおりの状況に戻っていくというシナリオも考えられる。

ただ感染症の専門家が指摘するように、現在の状況ではここ2週間程度が感染者数増加の山場になるわけだから、その間の国内外の金融市場では何が起こるかわからない。想定外の事態をある程度考える必要はあるだろう。

最大の問題は、安倍政権というよりも自民党政権が、こうした危機管理にあまりにも弱い体質が浮かび上がったことだ。振り返れば東日本大震災のときは、自民党ではなく旧民主党政権だった。

クルーズ船で4000人の対応に苦慮していた自民党政権に比べて、数十万人単位の被災者が出た東日本大震災では、市町村、都道府県にある程度の権限を委譲して、対応できたことを考えると、現在の自民党の姿は国民不在の姿勢が目立つ。自民党政権が目指すような中央集権型の危機管理には限界があると言っていいだろう。

そういう意味でも 今後の日本の行方は極めて不透明と言っていい。

PCR検査も、安倍政権を擁護する評論家などが「パニックになるからダメだ」という表現をしていたが、東日本大震災時と同様の危機感をいかに持てるか。まさに危機管理の問題だ。ここでの対応を誤れば、もっとすさまじいパニックになることも想像したほうがいい。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
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