最新記事

財政赤字

財政出動頼みのアベノミクス 消費税10%でも過去最高の歳出で健全化遠く

2019年12月20日(金)17時01分

安倍政権下での財政健全化が停滞している。20年度当初予算は歳出総額が102兆6580億円で過去最高となった。過去最高の税収を見込みながら、基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の赤字幅は縮小しなかった。写真は都内で9日撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung Hoon)

安倍政権下での財政健全化が停滞している。20年度当初予算は歳出総額が102兆6580億円で過去最高となった。過去最高の税収を見込みながら、基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の赤字幅は縮小しなかった。日銀の金融緩和による景気浮揚力が限られる中で、アベノミクスは財政政策がけん引する形となり、歳出改革へのかじ取りは厳しさを増しそうだ。

前年度剰余金、震災以来の使い切り

「安倍内閣発足以来、国債発行額を8年連続で減額」――20年度予算案の閣議決定後、財務省が公表した予算案のポイントをまとめた資料には、今回も国債発行を減らす文言が入り、経済再生と財政再建の両立がアピールされた。しかし、国債発行の減額幅は1043億円。前年度比約1兆円の減額となった19年度に比べ、減少ペースは鈍っている。

一方で資料からは、PBの赤字幅縮小に関する1文が抜けた。20年度のPBは9兆2047億円の赤字と、19年度の9兆1523億円の赤字からわずかに悪化したからだ。

予算編成が本格化する前、財務省のある幹部は「安倍政権下では、一貫して新規国債発行は減少してきた」と強調し、20年度の国債発行も減額すると示唆していた。ただ、経済対策や社会保障の充実など高まる歳出増の圧力を前に、どう歳入を工面するのか、予算案には財務省の苦心がにじむ。

例えば、19年度決算で出た約1兆3000億円の剰余金から5274億円を計上した。財政法の規定では、剰余金の半分は国債の償還などに回さなければならないが、剰余金は先に閣議決定した19年度補正予算でも活用されており、政府は特例法を成立させて19年度の剰余金全額を使えるようにする。

特例法案は、東日本大震災の発生で復興対策を盛り込んだ補正予算の編成を急いだ2011年以来のことだ。

アベノミクスのけん引役、3年前に「交代」

「何のための消費税率引き上げだったのか」。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは消費税率引き上げに伴う税収増が景気対策に回り、財政再建が進んでいないと指摘する。

宮前氏は、2016年を境にアベノミクスの先導役が日銀の金融政策から財政政策に移ったとみている。

12年末に発足した第2次安倍政権下で日銀は大規模緩和を打ち出し、株高・円安が進行。好調な企業収益を背景に税収は増加基調をたどった。PBの赤字幅は12年度当初予算の24.9兆円から16年度に10.8兆円まで縮小した。しかし16年度以降、PBの赤字額の縮小は減速する。

16年8月、政府は事業規模28.1兆円・財政措置13.5兆円の経済対策を打ち出した。日銀は16年1月にマイナス金利政策を導入したが、金融機関の収益悪化など副作用への懸念が高まり、政府は財政出動重視へ軸足を移したと宮前氏はみている。

16年の「方針転換」から3年、アベノミクスのけん引役は財政のままだ。政府が再び大規模経済対策を打ち出す半面で、日銀は18―19日の金融政策決定会合で追加緩和を見送った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・序盤=S&P・ナスダック過去最高値、

ビジネス

S&P500種の年末目標引き上げ、UBS 貿易摩擦

ビジネス

米5月PCE価格、前年比2.3%上昇 個人消費支出

ビジネス

米中、希土類輸出巡る対立解消 ジュネーブ合意の履行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 5
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 6
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    中国軍事大学が特殊任務向け「蚊サイズ」ドローンを…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中