最新記事

中国経済

中国政府は、アメリカとの貿易戦争で弱る民間企業を国有化する?

Will China's Government Take Over Private Businesses?

2018年10月3日(水)18時15分
ジェイソン・レモン

嵐に備える中国の産業集積地、深セン Jason Lee-REUTERS

<「民間企業は、経済の発展に寄与するという使命を果たした。これからは徐々に身を引いていくべきだ」という記事は、中国政府の観測気球か?>

アメリカのドナルド・トランプ大統領が仕掛けた貿易戦争の影響が中国経済に広がりつつあるなか、中国の共産党政権は国内の民間企業を国有化すべきだとする声が上がった。

米政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ」が10月2日に報じたところによると、ベテラン投資家Wu Xiaopingは最近発表した記事のなかで、「民間企業は、経済の発展に寄与するという使命を果たした。これからは徐々に身を引いていくべきだ」と書いた。

記事は猛反発を食らい、最終的には削除された。しかし、サウスカロライナ大学エイキン校の准教授フランク・シエは、民間企業を国有化するという考えに国民がどう反応するかを試すために、中国政府がわざと記事が掲載されるのを許したのではないかと指摘する。

「中国政府が国民に知られたくないと考える情報はすぐに消される。インターネットやメッセンジャーアプリの微信に出た途端に削除される。しかし今回の記事は、かなり長いあいだ掲載されていた」

香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストによると、中国の民間企業は困難に直面している。2018年1月から7月にかけての民間企業の利益余剰金は前年同期比で28%近く減少している。同じ期間に、国有企業の利益が28%強増加して今も成長中なのとは対照的だ。

アメリカが、2500億ドル分の中国製品に報復関税を課してきたのも民間企業の業績の足を引っ張っている。中国政府は対抗措置として、アメリカからの輸入品1100億ドル分に関税をかけ、アメリカ以外の国々からの輸入品に対する関税を引き下げた。民間企業各社は、こうした変化への適応を迫られている。

共産党はリスクを嫌う

7月にはすでに、法律家が国営メディア向けに意見記事を書き、貿易摩擦のために中国では企業の倒産が相次ぐだろうと警鐘を鳴らしていた。「備えれば生き残れる。備えなければ倒産は免れない」

習近平国家主席は9月末、中国政府は引き続き民間企業を支援し、国有企業の強化にも努めることを約束した。

中国の国務院発展研究センター副主任の隆国強は、国有企業の運営の仕組みは誤解されていると、サウスチャイナ・モーニングポストに述べた。

「アメリカは、国有企業の実体は中国政府だと考えている」と隆は語る。「しかし、(40年前に)改革が始まって以来、国有企業は市場原理で動いており、政府と同じではない」

だが台湾経済研究院のDarson Chiu研究員は、中国政府は貿易摩擦に乗じて自らの影響力を拡大しようとするだろうと主張する。

Chiuはボイス・オブ・アメリカに対し、「民間企業の国有化であれ、国有企業の規模拡大であれ、いずれも目的は政府の支配力強化だ」と語った。中国政府の観点に立てば、「国有企業の規模を拡大させれば、計画経済を推し進めてリスクを管理するのが容易になる」。

(翻訳:ガリレオ)


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!

気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを

ウイークデーの朝にお届けします。

ご登録(無料)はこちらから=>>

Buildings are seen in the rain as Typhoon Mangkhut approaches, in Shenzhen, China September 16, 2018. REUTERS/Jason Lee

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇、気管支炎治療のため入院

ワールド

中国新規銀行融資、1月は過去最高の5兆1300億元

ワールド

バンス米副大統領、欧州諸国に国防費増額求める

ワールド

ロシア、チェルノブイリ原発への攻撃否定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザ所有
特集:ガザ所有
2025年2月18日号(2/12発売)

和平実現のためトランプがぶち上げた驚愕の「リゾート化」計画が現実に?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 2
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景から削減議論まで、7つの疑問に回答
  • 3
    吉原は11年に1度、全焼していた...放火した遊女に科された「定番の刑罰」とは?
  • 4
    【クイズ】今日は満月...2月の満月が「スノームーン…
  • 5
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 6
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 7
    夢を見るのが遅いと危険?...加齢と「レム睡眠」の関…
  • 8
    終結へ動き始めたウクライナ戦争、トランプの「仲介…
  • 9
    鳥類進化の長年の論争に決着? 現生鳥類の最古の頭骨…
  • 10
    駆逐艦から高出力レーザー兵器「ヘリオス」発射...ド…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ドラマは是枝監督『阿修羅のごとく』で間違いない
  • 4
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 5
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 6
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮…
  • 7
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観…
  • 8
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップル…
  • 9
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景…
  • 10
    「だから嫌われる...」メーガンの新番組、公開前から…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中