最新記事

リーダーシップ

ビッグデータ時代に「直感」はこう使え

dialogue151109-b.jpg

 土木系や一部の製造業などでは、財務関連のITシステムがシンプルすぎたり、古すぎることがある。また、どの業界でも、「データのラッダイト運動」(編集部注:ラッダイト運動は、1810年代、産業革命期のイギリスで起きた機械破壊運動)とでも呼ぶべき情報処理の機械化や自動化に反対する動きがあるようだ。調査結果によれば、高度に専門化されたシステムや、データ処理ソフトが世の中にはあふれているというのに、CFOの70%がいまだにエクセルのスプレッドシートしか使っていない。先述のフォックス氏は、どんな業界であれ、幅広い業務の中から企業データを収集・管理し、分析する基幹業務ソフトの導入を検討することを提案している。

 生のデータを手に入れることはさほど難しくはない。ただ、信頼できるデータの分析結果を手に入れるのは簡単ではない。情報の信頼できる分析結果が得られない時にリーダーは、共同で物事を進めようとしがちだ。判断を下すときに複数の人の意見を求め、リスクを分散させるためだ。しかし、このような"共同作業"が決断の質を向上させたという調査結果はほとんど見当たらない。

「エコノミスト」誌の調査部門であるエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の2014年発表の調査報告によると、回答者の4分の3近くが決断を下す際に自分の「直感を信じる」と答えている。その中には、最終的な判断を下す前に必ずデータを分析すると答えた者も含まれている。

 最終的な判断をデータの分析結果に拠っているのに、「直感を信じる」と回答したことに矛盾を感じるかもしれない。だが、この矛盾しているように見える回答からは、ある重要な知見を得ることができる。「データと直感が相反した場合に、リーダーはデータよりも直感を優先する」というものだ。

 健康・美容事業の世界的大手、アライアンス・ブーツ社の調査部門責任者ダン・ハンブル氏は、「データと直感が矛盾したときには、そのままデータを信じることはせず、もう一度分析をやり直します」と、EIUの質問に答えている。直感とデータがぶつかったとすれば、データの収集や分析の仕方が間違っていたのかもしれないと思うようにしているそうだ。

「直感はデータとその分析結果の検証に使える便利なツールでもあります」とハンブル氏はつけ加える。データそのものが根拠として使うには弱い場合、集め方がでたらめだった場合、分析の仕方が良くなかった場合などに、直感は警鐘を鳴らすことができる。「データが正しいと確信できて、それが適切に、正確に分析されているとわかったならば、(直感を退けて)データに基づいて行動するべきです」とハンブル氏は語る。

 クランフィールド大学経営大学院のモリアン氏は、人の直感には限界があることを強調する。「直感だけに頼るのは、最初のうちはうまくいくかもしれません。でも、いくら鋭い直感をもっていたとしても、そのやり方を長く続けることは難しいでしょう。とくに、今よりもっと上をめざしたいという野望があるのならば、(データの力を信じ)直感"だけ"に頼るのはやめるべきです」


編集・企画:情報工場 © 情報工場

johokojologo150.jpg





※当記事は「Dialogue Review Sep/Nov 2015」からの転載記事です

dialoguelogo200.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

春闘賃上げ率5.25%、34年ぶり高水準 ベア3.

ビジネス

中国ハイテク大手、オフショア元ステーブルコインを提

ワールド

ロシアの6月サービスPMIは49.2、1年ぶり50

ビジネス

日経平均は3日ぶり小反発、米雇用統計控え方向感出ず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中