最新記事

貿易自由化

オバマのTPP交渉に立ちはだかる米議会

順調に進むかと思われた批准交渉をめぐり民主党の内紛劇が勃発する事態に

2014年1月30日(木)14時11分
ジョン・バーウェイ(アメリカン・エンタープライズ研究所)

頼りは共和党 貿易促進権限を取り戻すには敵の協力を仰ぐしかないが Mario Anzuoni-Reuters

 今月9日、現在失効中の貿易促進権限(TPA)を米オバマ政権に付与する法案が、通商政策を担当する上下両院の超党派有力議員によって提出された。

 TPAが復活すると、TPP(環太平洋経済連携協定)に関する政府の合意内容について議会は修正を求めることができなくなり、「承認するか、しないか」の選択肢しかなくなる。

 法案を提出した下院歳入委員会のキャンプ委員長(共和)や上院財政委員会のボーカス委員長(民主)らは、TPAは「TPP締結を確実に、正しく行う」ために必要であり、「交渉に対する議会側の意向を政権や相手国に明示できる」と述べた。

 だが民主・共和両党から、TPAは合意内容を修正する議会の権限を事実上奪うものだとして、強い反発が出ている。

 右派の反対者の多くは、TPAは行政府に不当に強い権限を与えるものだと危惧する。他方、左派が懸念するのは労働や環境、人権分野などに問題があっても修正を求められない点だ。

 TPA法案の提出は、TPP交渉の妥結は近いと踏んでのことだろう。だが最終合意の形はまだ見えず、各国の議会で承認を得られるかも疑問だ。

 繊維製品や医薬品から国有企業の扱いにも及ぶTPPの交渉は終盤で厳しさを増しており、合意が延び延びになっている。

参加国の間になお隔たり

 内部告発サイト「ウィキリークス」で先に暴露された文書によれば、知的財産権の取り扱いなどについてまだ各国に大きな隔たりがあるという。意見の相違自体は驚くに当たらないが、交渉の難航を見ていると、仮に妥結しても本当に「野心的で包括的な高度の合意」が実行されるのか疑わしくなってくる。

 既に昨年末の合意期限は過ぎたが、交渉参加各国は交渉が「大きく進展」しており、「大半の分野で『落とし所』を特定できた」と楽観的見通しを示している。どこが落とし所かはともかく、各国は早くも、勝手な解釈でTPPの恩恵を自国民にアピールし始めた。これで本当に合意内容は実現できるのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、6月以降の数回利下げ予想は妥当=エストニア

ワールド

男が焼身自殺か、トランプ氏公判のNY裁判所前

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中