最新記事

金融

中国シャドーバンキングの闇

急成長する「影の銀行」は中国経済の潤滑油の役割も果たしているが、このままではアメリカのサブプライムと同じ運命をたどりかねない

2013年8月6日(火)16時38分
イブ・ケアリー

中国版サブプライム? 著名投資家ソロスは、両者は不気味なほど似ていると警告 Jason Lee-Reuters

 天国と地獄は紙一重。中国の銀行は今でこそ絶好調だが、一瞬にして暗転の恐れもある。

 売上高や利益、総資産などを総合して世界の上場企業をランク付けする米フォーブス誌の「フォーブス・グローバル2000」で、今年は中国工商銀行が中国企業初の首位に立った。同行の昨年の利益は378億ドル、総資産は2兆8135億ドルに上った。

 今年に入っても中国の銀行は好調だ。第1四半期の工商銀行の純利益は110億ドル強で、前年同期比12%増。ただし増益率は前年同期の14%に及ばなかった。中国農業銀行の純利益も前年同期比8・2%増の75億8000万ドルだったが、前年同期の28%増には遠く及ばない。

 そして新華社通信の5月の報道によれば、既に危機の芽は膨らみつつある。今年第1四半期には銀行の不良債権総額が850億ドル近くに達しており、融資残高に占める不良債権の比率は0・96%だった。この比率は11年末から6期連続で、じわじわと増加している。

 不良債権は地方銀行や国有銀行でも増加している。延滞債権(不良債権の第1段階だ)も目立つ。12年半ばの時点で、国内上位10行の抱える延滞債権の総額は800億ドル弱で、年初に比べて184億ドルも増えた。中国銀行監督管理委員会はこうした状況を受け、不良債権と「一部の分野・産業におけるリスクの増大」が金融業界にとって「依然として深刻なリスク」になっていると警告している。

 中国の銀行業の将来的な健全性を占う上で見逃せないのは、膨張するシャドーバンキング(影の銀行)だ。

 シャドーバンキングには、大きく分けて2種類ある。1つは信託機関などのノンバンクが提供する融資など。もう1つは銀行が(各種の規制や責任を逃れるために)簿外で提供する金融商品で、これには債権を小口化した資産運用商品である理財商品(WMP)などが含まれる。

 米格付け大手ムーディーズの報告書によれば、過去2年で中国のシャドーバンキングの規模は67%も拡大し、12年末には4兆7000億ドルとGDPの55%に達した。

 中国では、融資基準が厳しい一方で金利が人為的に低く抑えられており、通常の銀行融資を受けられない人が多い。シャドーバンキングは、そんな人々や高い利回りを求める投資家を満足させる選択肢として、急成長した。ノンバンク系の融資は経済の潤滑油でもあった。おかげで民間の小さな新興企業も資金を調達できるし、既存の企業も運転資金を確保して借金の返済を続けてこられた。


実体なき資産バブル

 ではWMPはどうか。中国政府がWMPの増加を認めてきたのは、それが投資家への高配当を実現し、結果として消費を喚起するからであり、また「裏口からの金利自由化」でもあるからだ。

 しかしシャドーバンキングは、一方で資産バブルを膨らませ、過熱気味の不動産市場などへの過大な投資をあおりかねない。

 そのバブルの主役と言えそうなのがWMPだ。昨年に商業銀行上位10行が売り出したWMPの総額は米ドル換算で1兆2400億ドル、前年比68%も増えている。なかには途中で破綻しかねない高リスク事業や長期プロジェクトを組み込んだ商品もある。一方でWMPの償還期間は短いので、資金のミスマッチが生じ、投資家への配当が困難になる恐れもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アフリカのコロナ犠牲者17万人超、予想を

ワールド

米上院、つなぎ予算案可決 政府機関閉鎖ぎりぎりで回

ワールド

プーチン氏「クルスク州のウクライナ兵の命を保証」、

ビジネス

米国株式市場=急反発、割安銘柄に買い 今週は関税政
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 2
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴された陸上選手「私の苦痛にも配慮すべき」
  • 3
    中国中部で5000年前の「初期の君主」の墓を発見...先史時代の支配者の実像とは?
  • 4
    【クイズ】世界で1番「天然ガス」の産出量が多い国は…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 6
    エジプト最古のピラミッド建設に「エレベーター」が…
  • 7
    鈍器で殺され、バラバラに解体され、一部を食べられ…
  • 8
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 9
    自然の中を90分歩くだけで「うつ」が減少...おススメ…
  • 10
    ピアニスト角野隼斗の音を作る、調律師の知られざる…
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 4
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 9
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 10
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中