最新記事

ユーロ

キプロスの預金課税ショックで欧州危機再燃か

小国救済の条件に銀行預金課税を持ち出したユーロ圏のみみっちさに世界の株価が急落。最悪の事態も招きかねない

2013年3月19日(火)18時06分
フレヤ・ピーターセン

大失策 キプロス国民が預金を引き出しに走るのは当たり前 Yiannis Nisiotis-Reuters

 EUなどに金融支援を求めている地中海の小国キプロスに対して先週、救済と引き換えの驚くべき条件が提示された。国民のすべての銀行預金に課税するというのだ。これを受けて週明けの世界の金融市場では株価が大きく下落した。

 ユーロ圏諸国などは100億ユーロ(130億ドル)規模のキプロス救済計画の条件に、銀行預金への課税を含めると発表。10万ユーロ(13万ドル)未満の銀行預金には6.75%、10万ユーロ以上に9.9%の課税を実施するとした。

 今週に入り、ユーロ圏各国の財務相は緊急の電話会議で小口の預金者に限っては課税しないことで合意したが、高額預金者への課税率はさらに引き上げることが検討されている。

 この決定で、キプロスの国民が預金を引き出そうとATMに殺到する様子が報道されている。同時に、ユーロ圏のより広い範囲で銀行取り付け騒ぎが起こることも懸念されている。ギリシャやスペインなど自国が経済危機に直面している国は、特にその危険が高い。

 AFP通信は、アメリカのコンサルティング会社CMCマーケッツのアナリスト、マイケル・ヒューソンのこんな発言を報じている。「ヨーロッパの政治家たちの目的が、銀行システムの根幹を成す社会的な信用そのものをボロボロにすることだったとしたら、彼らはこれ以上ないくらいの大成功を収めた」

 AP通信は、欧州債務危機の中にあっても、これまで各国の預金者が直接的な被害を被ることはなかったと指摘している。

小額の救済の割に大き過ぎるリスク

 ユーロが対ドルで3カ月ぶりの安値をつけるのと並行し、欧州株式市場も軒並み下落。スペインIBEX平均株価とイタリアMIB株価指数はともに2%下落した。ロンドンのFTSE100種総合株価指数は1%、ドイツのDAX株価指数は1.3%、フランスのCAC株価指数は1.6%、それぞれ下落している。肝心のキプロスの株式市場は、銀行休業日だったために開かれなかった。

 アジアの株式市場も影響を受けている。日経平均株価は2.7%、香港ハンセン株価指数は2.1%下落。一方でリスクの少ない円が買われ、円高が進行した。

 オーストラリアでも、S&P/ASX株価指数は2.1%下落した。オーストラリアン紙は、資金運用グループのペンガナ・キャピタルのファンドマネジャー、ティム・シュローダーズのこんな言葉を引用している――キプロスはGDPがユーロ圏17カ国全体に占める比率がわずか0.2%に過ぎない小国だが、投資家は連鎖反応を懸念している。

 AP通信は、英ソードフィッシュ・リサーチ社の最高経営責任者ゲーリー・ジェンキンズの発言を報じた。「中期的に見れば、銀行預金者にとって損失となるこのような決定は、欧州債務危機が再燃した場合に最悪の事態の引き金となる可能性がある。何より私が驚いたのは、キプロス救済程度のカネのために、ユーロ圏諸国がこんな大きな賭けに出ようとしているということだ」

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム首相、FTA交渉加速を指示 米関税対応

ビジネス

午前のドルは141円後半へ下落、懸念後退でも不透明

ワールド

ドイツ軍、NATO東端部有事の兵站支援を大手企業に

ビジネス

豪ウッドサイド、第1四半期売上高が予想超え 株価上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 4
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 8
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 9
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 10
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中