最新記事

欧州債務危機

スペインを追い詰める造反フィンランド

ようやく決まった金融安定化政策に伏兵フィンランドがノーを突き付け、債務危機の悪循環は加速する一方

2012年7月10日(火)17時51分
トーマス・ムチャ

瀕死 歳出削減の影響はスペイン人の生活の隅々に及んでいる Marcelo Del Pozo-Reuters

 欧州債務危機。見飽きたパターンの繰り返しだ。

 まず、欧州各国の指導者が話し合う。市場の圧力を受けて金利が上昇し、政府の借入コストが増大する。指導者がまた話し合う。以下、同じことの繰り返し──。

 今週もそうだ。先週は落ち着いていたスペインとイタリアの国債利回りが、今週になって急上昇。7月9日のスペインは国債利回りは7%を超え、イタリアも6%以上という危険水域に達した。

 欧州連合(EU)のユーロ圏諸国は9〜10日に財務相会合を開き、スペインへの300億ユーロの金融支援を月末までに決定することで合意した。

「非常に懸念している」と、米ウェールズ・ファーゴ銀行の地域投資責任者ジェフ・サベージは経済ニュースサイト、ブルームバーグに語っている。「スペインにとって国債利回り7%は持続不可能な水準だ。恐ろしい問題だ。重要な貿易相手国が経済危機に陥ったら、アメリカ企業の収益にも影響が出る」

 今回、スペインの危機脱出の障壁となっているのはフィンランドだ。フィンランドは先週、ユーロ圏の常設の金融安全網となる欧州安定メカニズム(ESM)」を利用して財政難の国の国債を市場で買い支えるシステムに異議を唱えた。
 
 大胆な打開策を求める他の欧州諸国の指導者らは、こうした主張に批判的だ。ベルギーの元首相で、欧州議会で欧州自由民主同盟の会派代表を務めるヒー・フェルホフスタットは9日、フィンランドを厳しく批判する声明を発表した。「債務危機への永久的な解決策を模索する時計は深夜12時に向かってカウントダウンを続けている。先の首脳会談で合意された計画を全員が心の底から支持しなければユーロ圏は存続できない」

地下900メートルでストを続ける炭鉱労働者

 ユーロ圏内の内輪もめが続いている間にも、債務危機の打撃はスペイン人の生活の隅々に及びつつある。炭鉱労働者は5月下旬から、政府の補助金削減策に抗議して「地下スト」を続けている。炭鉱業への補助金が大幅にカットされれば、一万人近い炭鉱労働者が職を失うかもしれない。


 スペイン北部の14人の男たちが40日以上にわたって、地下900メートルの暗闇で過ごしている。閉じ込められたわけではない。炭鉱労働者の彼らは、業界への補助金の大幅削減に抗議して炭鉱の奥深くに自発的に閉じこもっている。


 事態はここまでひっ迫しているのだ。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減との報

ワールド

トランプ氏、USMCA離脱を来年決定も─USTR代

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始 27
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    白血病細胞だけを狙い撃ち、殺傷力は2万倍...常識破…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中