最新記事

ウォール街

それでもゴールドマンが愛される理由

金融危機での不始末やイメージダウンでも顧客が離れることなく、今も投資銀行業務は絶好調

2011年8月29日(月)12時48分
ベサニー・マクリーン

名門の力 顧客第一でなくなってもゴールドマン・サックスの信用は揺らがない? Brendan McDermid-Reuters

 金融大手ゴールドマン・サックスの今年第2四半期の利益が10億ドルを超えた。すごい数字のように思えるが、専門家たちの予想よりはずっと少ない。アナリストや投資家は「同社が道を見失ったのではないかと疑っている」と、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じた。

 とはいえ実際は、今期の業績にはゴールドマンにとってかなりプラスの要素もある。金融危機での不始末や、それに伴うイメージダウンで顧客離れが起きると思われていたが、そうはならなかった。

 同社は昔から、貪欲なマネーゲームであるトレーディング業務と、顧客サービスや企業育成に重点を置く投資銀行業務の両方を手掛けている。

 00年には投資銀行業務が同社の利益の3分の1以上を占めていたが、ネットバブル崩壊後は激減。主力業務はトレーディングへとシフトしていった。06年に商品相場部門出身のロイド・ブランクファインがCEOに就任したことは、トレーディングに重きを置いている証しに思えた。そして一流の投資銀行家たちはゴールドマンから去っていった。

 次第に同社は「顧客の利益を最優先する」という昔ながらの経営理念を喧伝しながら、実際は自社の利益を優先する会社になった。08年の金融危機では、それが誰の目にも明らかだった。

「頭の切れるサメ」のような存在

 しかしそれでも顧客は去らず、ゴールドマンの銀行業務部門は今も順調だ。第2四半期の利益は、前年同期比で54%増加。投資銀行にとって最も望ましい仕事であるM&Aの顧問業務は業界1位で、証券関連サービスでもトップに位置付けている。

 弱点はというと、すべてトレーディング部門に集中している。同部門の利益は50%以上下がった。

 なぜゴールドマンの銀行事業部門は繁盛しているのか。1つには、顧客が何も分かっていないからかもしれない。あるいは、会社の利益を顧客より優先すると知っていても、気にしない顧客が多いのかもしれない。

 07年にゴールドマンとの顧問契約を検討していた貯蓄貸付組合ワシントン・ミューチュアル社のCEOケリー・キリンジャーは当時、こう結論付けた。「連中は頭が切れるが、顧問に迎えるのはサメと一緒に泳ぐようなものだ」

いや応なく変化した業務環境

 顧客にしてみれば、頭さえ切れれば強欲でも構わないのかもしれない。あるいは、ゴールドマンが改心したと思っている可能性もある。

 しかし、企業に一度根付いた理念を変えるのは容易ではない。ゴールドマンの理念が本当にトレーディング重視になり、顧客サービスの精神を失ったのなら、3年やそこらで元に戻るはずがない。

 ゴールドマンの業務環境は、同社の意向とは関係なく変化しているとも言える。サブプライム危機以降、ウォール街の企業はいや応なく自己資本比率の増加を求められてきた。その結果、収益性は低下する。

 金融規制改革法であるドッド・フランク法の施行による収益性の変化や、銀行による高リスクな取引などを制限するボルカー・ルールの影響も気になる。

 今年ゴールドマンの株価は最高値が175ドルに達したが、今では130ドル前後。トレーディング部門の業績はしばらく上向きそうもないし、好調な銀行業務も利益は全体の20%にすぎない。資金管理部門も慢性的に業績が悪い。

 それでもゴールドマンは、他の会社が喉から手が出るほど欲しがる資産を持っている。それは忠実な顧客だ。

[2011年8月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾総統、強権的な指導者崇拝を批判 中国軍事パレー

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中