最新記事

世界経済

景気は「W字型」?それとも「L字型」?

二番底から日本型まで、有力エコノミストが予測する世界経済4つのシナリオとその根拠

2010年10月12日(火)18時00分
ジョシュア・キーティング

景気は混沌 先行きについては専門家の間でも意見が割れている

1) V字型

[特徴]
 経済が回復しているという、最も楽観的な見方。数カ月の不況の後、経済成長は再び急速に加速する。

[前例]
 97年、タイの通貨バーツの暴落で起きたアジア金融危機で世界経済は一気に落ち込んだ。しかしIMF(国際通貨基金)の巨額の融資ですぐに景気は回復した。

[提唱者]
 アメリカの直近の不況は、厳密には07年末頃に始まり、09年6月に終息した。だが、急速な回復を予測する有力な意見もある。金融危機の初期に慎重な投資運用で大儲けしたヘッジファンド投資家のジョン・ポールソンは今年4月、「経済は強い回復の兆候を示している」と発言し、回復を予見。証券会社バークレイズ・キャピタルも今年8月、企業収益の堅調さと中央銀行の対応能力に基づき、「V字型」回復の見込みが強いと予測している。

2) U字型

[特徴]
 景気がいまだ低迷期にあるという見方。「U字型」では景気が長期に渡って低迷した後、ゆっくり回復するとされている。現在の景気回復に関しては、「V字型」の提唱者より控えめに評価している。
[前例]
 73年〜75年にかけてアメリカを襲った不況では、高い失業率とインフレ率に石油ショックが拍車をかけた。

[提唱者]
 IMFの元主任エコノミスト、サイモン・ジョンソンは、この「U字型」不況を「バスタブ」に例えている。「一旦入るとなかなか抜け出せない。バスタブの縁は滑りやすい。底がゴツゴツしていることもあるが、それでもなかなか出てこられない」

 証券大手ゴールドマン・サックスの研究チームは、今年初めに示された回復傾向を示す数字にも惑わされなかった。彼らの分析によれば、融資状況の収縮が原因で回復基調は今後も鈍く推移し、世界経済はいまだに「U字型」の底にあるという。アラン・グリーンスパン前FRB議長も「U字型」を支持するグループの1人。回復は「緩やかで、進行は遅い」とみている。

3) W字型

[特徴]
 景気が回復する前に、再び悪化するという見方。一般的に「二番底」として恐れられている。最初の落ち込みから一旦回復するものの、再び景気が落ち込む。

[前例]
 多くの経済学者は、戦前の世界大恐慌が実際には2つの不況が重なったものと考えている。1回目は29〜33年、2回目は37〜38年だ。2回目の恐慌は早計な金融緊縮政策が原因で起こり、第2次世界大戦でアメリカの国内産業が持ち直すまで続いた。

[提唱者]
 ノーベル経済学賞を受賞したニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ポール・クルーグマンは「二番底」論者として有名。20カ国・地域(G20)首脳会合(金融サミット)で合意した1兆1000億ドル程度の景気刺激策では不十分だと主張している。

 レーガン政権で大統領経済諮問委員長を務め、80年代の「二番底」の不況と格闘したハーバード大学のマーティン・フェルドスタイン教授もまた、世界経済が「二番底」に向かっているとみる。フェルドスタインは昨年、「一時的には実質的な回復が起こるだろう。ただし、それは一時的なものだと強調しなければならない」という考えを示している。

4) L字型

[特徴]
「『血まみれの』L字型」は、最悪のシナリオだ。経済が実質的にどん底まで落ち込み、経済成長が何年間も停滞すると予測する。

[前例]
 90年代の日本の「失われた10年」は、日本経済が急成長を続けた後、バブルが崩壊したことから始まった。

[提唱者]
 ダートマス大学のデービッド・ブランチフラワー教授は、適切な景気刺激策がさらに実施されなければ「L字型」の世界不況が到来すると警告する。昨年ブランチフラワーは「民間部門の回復が期待できない状況では、『L字型』不況に突入するかもしれない」という見方を示している。

 今後ヨーロッパ諸国が、長く痛みを伴う「L字型」の軌跡をたどると予測する経済学者は増えている。これらの国々は貨幣政策や労働市場に関して管理が行き届いていない。そんな経済学者もアジア諸国とアメリカに関しては、慎重ながら景気の底から回復しつつあるとみている。

Reprinted with permission from "FP Passport", 10/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

途上国の債務問題、G20へ解決働きかけ続ける=IM

ビジネス

米アマゾン、年末商戦に向け25万人雇用 過去2年と

ワールド

OPEC、26年に原油供給が需要とほぼ一致と予想=

ビジネス

先週末の米株急落、レバレッジ型ETFが売りに拍車=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中