最新記事

株式市場

ダウ「瞬落」、真犯人は超速取引

2010年6月30日(水)15時38分
マシュー・フィリップス

 この数週間、HFT業界は08年後半〜09年前半の株価暴落時以来のゴールドラッシュに沸いた。08年秋の金融危機以降、ダウは乱高下を繰り返しながら09年3月9日に6500ドルの安値を付けた。

「08年の大パニック」の間、長期投資家は大きな損失を被ったが、HFT会社は巨額の利益を上げた。「ガチョウが金の卵を産む時代だった」と、HFT専門のヘッジファンド、トレードワークスの創業者マノジ・ナランは言う。

 高頻度トレーダーに対する世間のイメージはいいとは言えない。彼らは偏執狂的で厭世的で、ドル箱のアルゴリズムを守りたい一心で秘密の部屋に閉じ籠もっている。取材に応じることはまずないし、自分たちの仕事のことはできる限り隠そうとする。これでは、空売り投資家やハゲタカファンドと並んで市場の「悪の殿堂」入りを果たしたのも無理はない。

「業界として、われわれは秘密主義になり過ぎた」と、ナランは言う。世のHFTバッシングを見かねてナランはマスメディアに登場し、業界の顔になった。テレビでオフィスも公開した(ジーンズ姿の20代の物理学博士たちがコンピューター画面をにらんでいるだけだったが)。「世間は今でも疑っている」と、ナランは言う。「秘密にするのは何か悪いことをしたからだろうと思われている」

サイバー金融時代の英雄

 ほとんどの人は、昨年7月にFBI(米連邦捜査局)がゴールドマン・サックスの元社員を逮捕するまで、HFTのことなど聞いたこともなかった。逮捕されたセルゲイ・アレイニコフはロシア出身のコンピュータープログラマーで、ゴールドマン・サックスの高頻度取引のアルゴリズムを盗んだ容疑がかかっている。

 メディアは競ってこの件を報じた。アレイニコフのやってきたことを一面で詳しく報じ、一般になじみのない超高速取引の世界で、トレーダーたちがいかにして他人の注文を見た上で取引を先回りするかなどの詳細が報じられた。

 アレイニコフは、金融関連ブロガーたちの間でカルト的英雄に祭り上げられた。世界で最も悪名高い銀行からお宝を盗もうとしたサイバー時代のロビン・フッドだ。

 事件が知れ渡ると、HFTに対する反発は強まった。SECや、イギリス版のSECである金融サービス機構(FSA)が調査を開始。チャールズ・シューマー米上院議員は規制を作ると脅し、民主党の下院議員2人は、すべての株取引に0・25%の取引税を課す法案を出した。

 HFT業界は、彼らの存在は市場をより効率的で公正なものにすると主張する。その言い分を理解するには、HFTが誕生した00年9月までさかのぼる必要がある。

 同月、市場のコンピューター化に熱心だったアーサー・レビットJr.SEC委員長(当時)は、各市場に価格の小数点化を指示した。それまで0・125ドル(8分の1ドル)刻みの価格で売買されていた株式やオプションが、1セント(0・01ドル)単位で売買されるようになった。

 小数点化の前は、例えばIBM株を1株117〜118ドルで買いたい場合、投資家は117と8分の1ドル、4分の1ドル、2分の1ドル......と、8分の1ドルの刻みでしか買い注文が出せなかった。その買い注文に合う売り注文を見つけてくるのが取引所の仕事だ。

 この買値と売値の差をスプレッドと呼ぶ。小数点化以前は最小のスプレッドは8分の1ドルだったが、今は1セントを超えることはまずない。スプレッドが小さければ取引のロスが少ないので、普通の投資家にとってはいいことだ。だが、買値と売値の差を収益源にする値付け業者にとっては死活問題になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英CPI、2月は前年比+3.0%で1月と同率 中東

ビジネス

三菱マ、小名浜製錬所の銅製錬を停止へ 減損210億

ビジネス

キオクシアHD株、東芝とベインキャピタル系が一部売

ワールド

香港警察、黎智英氏の評伝販売で書店関係者4人逮捕=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆保険」を達成した中国の医療保険の実態とは
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下位になった国はどこ?
  • 4
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 5
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 6
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 7
    スペイン王室、王妃と王女の装いに見る「母から娘」…
  • 8
    「有事の金」が下がる逆説 イラン戦争で市場に何が…
  • 9
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 10
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中