最新記事

マーケティング

勧誘メールの成功率を上げるコツ

これまでの常識を覆す効果的なメール広告の打ち方が、大学の研究で明らかになってきた

2009年11月12日(木)19時03分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

露骨な宣伝はペケ 消費者は、口うるさい母親のように自分を応援してくれるメールを待っている Jason Reed-Reuters

 電子メールや携帯電話に短い文を送る「ショートメッセージサービス(SMS)」は、低コストで不特定多数の人々のもとにメッセージを送りつけることができるという意味で、マーケティング業者にとって天からの恵みと言ってもいい。

 もっとも「弊誌をご購読ください!」「下院民主党にノーを!」「金購入のチャンス!」といった宣伝や呼びかけのメールは、たいていは迷惑なだけで、まともに相手にする人などほとんどいない。電話勧誘やダイレクトメールといった以前からある手法と同様で、勧誘メールの成功率はかなり低い。

 だがある種の「勧誘メール」が、消費者の行動に影響を与えるという点で驚くほど高い効果を上げていることが最近、明らかになってきた。

 ただし、「1月限定、○○までの往復航空券がたったの39ドル!」といった、もともとその気のない消費者に強引に売り込もうとする宣伝メールとは違う。むしろ消費者本人が関心を持ち、やるべきだと自覚していることに対し、積極的に取り組むようにうながすメールだ。口うるさい母親の小言のようなメールと言ってもいい。

 たとえば貯金は、少ないよりも多いほうがいいことくらい誰でもわかっている。アメリカ人に聞いたってそう答えるだろう。ただ行動が伴わないのは、貯金をするには今日買いたいものがあってもがまんし、楽しみを明日以降に先送りしなくてはならないからだ。

目標達成に向けた行動を支援する

 だがダートマス大学のジョナサン・ジンマン准教授(家計経済学)らによる研究によれば、貯蓄を呼びかけるメールを受け取った人は、受け取っていない人より貯蓄に励む傾向があるという。

 ジンマンらは研究の一環として、新興市場(ボリビア、ペルー、フィリピン)の銀行と協力。銀行は、口座を開設した顧客に対して一定の目標額に向けて貯金をするように勧めるとともに、そのなかから一部の顧客を無作為に選び、定期的にメールを送った。

 メールにはいくつかパターンがあり、目標額のことを思い出させる内容もあれば、高い利率など預金への意欲を高めるような条件を知らせるものもあった(両方に触れたものもあった)。

 結果はこうだ。「銀行からのメールを毎月受け取っていた人の貯蓄額はそうでない人よりも6%多かった。受け取っていた人は、一定期間内に目標額に達する確率も3%高かった」

 最も効果が高かったのは、目標達成に向けて預金を促すとともに、優遇措置があることを知らせるメールだった。こうしたメールを受け取っていた人の貯蓄高は、メールを受け取っていなかった人よりも16%近く高かった。

 それほど大した数字ではないと思う人もいるかもしれない。だが金融機関にとって、非常に安いコストで貯金を数%でも増やすことができるとすれば、マーケティング効果としては十分だ。

 こうしたメールがもし長期にわたって効果を発揮するとしたらどうだろう。複利の効果もあいまって、少しずつでも多めに貯めていた人はとても大きな蓄えを手にすることになるはずだ。

 ジンマン准教授はこう指摘する。「われわれの研究で銀行が送ったメールは受け手の意志に沿った内容で、そこがたいていの広告との大きな違いだ」

 つまり受け手はすでに貯金を始めており、続ける意志も持っている。注意を喚起する簡潔なメールには、目標に向けてきちんと行動するよう人々の背中を押す効果があったのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム・タイ関係、包括的戦略パートナーシップに格

ワールド

米台が関税交渉、APEC貿易相会合開催中の韓国で

ワールド

台湾、中国の新たな軍事演習を警戒 総統就任1周年控

ビジネス

日鉄が物言う株主提案に反対表明、新たな株式報酬制度
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 2
    宇宙から「潮の香り」がしていた...「奇妙な惑星」に生物がいる可能性【最新研究】
  • 3
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習い事、遅かった「からこそ」の優位とは?
  • 4
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食…
  • 5
    宇宙の「禁断領域」で奇跡的に生き残った「極寒惑星…
  • 6
    戦車「爆破」の瞬間も...ロシア軍格納庫を襲うドロー…
  • 7
    対中関税引き下げに騙されるな...能無しトランプの場…
  • 8
    サメによる「攻撃」増加の原因は「インフルエンサー…
  • 9
    トランプに投票したことを後悔する有権者が約半数、…
  • 10
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 6
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中