最新記事

CO2ゼロ、放射能ゼロの新「石炭発電」

エネルギー新時代

液化石炭からトリウム原発まで「ポスト原発」の世界を変える技術

2011.08.03

ニューストピックス

CO2ゼロ、放射能ゼロの新「石炭発電」

二酸化炭素を地中に閉じ込め、排出をゼロにする未来型の石炭ガス化複合発電が示す可能性

2011年8月3日(水)10時45分
ジョージ・ウェアフリッツ

厄介な「宝」 石炭は化石燃料の中で最も埋蔵量が多いが、人間の活動で作り出される温室効果ガスのおよそ3分の1を生んでいる

 石炭火力発電所といえば、煙を吐き出す煙突がつきもの。しかし同じ石炭発電でも「フューチャージェン」計画の設計図には煙突がない。二酸化炭素(CO2)の排出ゼロが売りなのだ。

 フューチャージェンは、アメリカ主導の国際共同プロジェクト。原型プラントは、国内15万世帯の使用電力を上回る年間出力275メガワットの発電能力をもつことになる。CO2を大気中に放出せずに新技術で回収し、永久に地中に閉じ込めるのが特徴だ。

 米エネルギー省が民間と合同で進めている10億ドル規模の同プロジェクトは、2012年までにイリノイ州かテキサス州でプラント稼働が始まることになっている。

 産業革命の原動力となった石炭は、化石燃料のなかで最も埋蔵量が多く、今後250年間はもつとされている。しかし従来の石炭発電を続ければCO2が地球を覆い、あと数十年で極地の氷が溶けてしまうと専門家は警告する。

 いま稼働中の石炭火力発電所の大半は公害の元凶で、なかには年に自動車200万台分もの大気汚染物質を吐き出すものもある。石炭は人間の活動で作り出される温室効果ガスの3分の1を生み出し、地球温暖化の最大の要因になっている。

 「この物質を従来どおりのやり方で燃やせば、地球は滅びる」と、ニューヨークの天然資源保護協議会は05年の報告書で断じている。

コストは従来型の2倍だが

 石炭燃焼で作った蒸気でタービンを回して発電する従来のシステムは、石炭の潜在エネルギーの35%しか活用していない。

 一方、最新の石炭ガス化複合発電は、化学反応によって石炭をガス化してタービンを回す。その際の排ガスの高熱で作った蒸気で蒸気タービン発電も行うため、総合効率は50%近くに達する。フューチャージェンの特異な点は、CO2を廃油田や地下帯水層に閉じ込めることで大気中への排出ゼロをめざしていることである。

 いずれにせよ、問題は費用だ。ガス化複合発電のコストは従来型の2倍。CO2の地中貯留も現段階では実験的な試みにすぎないため、中国などはリスクが高すぎると判断するだろう。

 実利重視の中国では、石炭洗浄などの排出抑制対策を行っている石炭発電所は、全体の2割にすぎない。電力不足や原油高で石炭利用が盛んになるなか、大都市での大気汚染が深刻になっている。

 中国政府も問題を認識している。胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席は06年のG8サミット(主要国首脳会議)で、クリーンな石炭発電への国際協調を呼びかけた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑

ワールド

サウジ6月原油販売価格、大半の地域で上昇 アジア5
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中