最新記事

英語じゃなくてグロービッシュ

非英語圏のEnglish

シンプルになった世界共通語と
「通じる英語力」の磨き方

2010.11.22

ニューストピックス

英語じゃなくてグロービッシュ

グローバル化に適応した簡易型英語がデジタル時代の新たな世界共通語になりつつある

2010年11月22日(月)10時00分
ロバート・マクラム(英オブザーバー紙編集委員)

ややこしい構文や難しい単語はもう要らない? 語彙が少なくて表現もシンプルな英語が世界に広まっている。英語が母国語ではない人も言いたいことを容易に伝えられる新しい言語──それが「グロービッシュ」だ。

 北京にある中国人民大学の卒業生は、ポスト毛沢東世代の典型だ。毎週金曜日の夕方になると、数百人が自発的に「英語コーナー」と呼ばれるキャンパスの小さな広場に集まる。目的は、もちろん英会話。

 彼らはグループに別れ、つたないが熱っぽい英語でサッカーや映画、パリス・ヒルトンのようなセレブについて語り合う。大人数で声を合わせ、バラク・オバマ米大統領が08年の選挙戦で使った「イエス、ウィ・キャン」のようなスローガンを叫ぶのも好きらしい。

 中国全土の大学構内で繰り返されるこの光景は、教育レベルの高い中国の若者たちの強烈な欲求をよく表している。彼らの望みは、「英語で会話する国際社会」の仲間入りを果たすことだ。

 中国は最もドラマチックな例だが、このような「英語欲求」は地球規模で広がっている。おかげで英語は国際語として新たな段階に突入した。今では世界の総人口の3分の2近くが、何らかの形で英語を使っているとも言われている。

 英語を母語とするのはおよそ4億人。母語の人口では中国語に次いで2位だが、中国語使用者のうち3億5000万人が何らかの形で英語を使っているとされる。
 
 とっつきやすく、順応性があり、庶民的で、権威に反抗するための手段でもある──今や英語は世界を動かす原動力であり、グローバルな意識の重要な一部だ。英語は「世界の第2言語」に成長する一方で、それ自体の形態や語彙も変化している。グローバル化した経済や文化のニーズに適応して言語の単純化が進んでいるのだ。

 かつて正統なイギリス英語から「より民主的な」アメリカ英語に移行した英語は、今度は世界の誰もが使える新しい道具に変わろうとしている。この道具としての英語は、「グローバル」と「イングリッシュ」を掛け合わせて「グロービッシュ」と呼ばれている。

 グロービッシュが初めて注目されたのは05年、デンマークの新聞がイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載したときだ。イスラム圏では多くの人々が怒りを爆発させ、各国で抗議デモが起きて139人が死亡した。

 最も奇妙な反応は、ロンドンのデンマーク大使館前でイスラム過激派が行ったデモかもしれない。彼らは英語でシュプレヒコールを叫び、英語のプラカードを掲げた。「イスラム教を侮る者を血祭りに上げろ」「表現の自由などクソ食らえ」。私が特に気に入ったのは「DOWN WITH FREE SPEECH(打倒、言論の自由)」だ。

 インターネットで世界がつながる時代になり、世界に対する自己アピールの表現方法も劇的に変化した──少なくとも私はそう確信した。イスラム過激派はイギリスが昔から享受してきた自由を英語で行使する一方で、自分たちのデモを認める自由の伝統そのものを抑え込めと要求したのだ。英語の普遍化の例として、これほどシュールで印象的なものはない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中