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2010.08.06

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高級料理店の技をラーメンに込めて

アイバン・オーキン(「アイバンラーメン」店主)

2010年8月6日(金)12時09分
山中泉

ニューヨーク流 独自の感性を生かしたラーメンを提案するオーキン。2010年9月には世田谷区経堂に新店舗をオープン Peter Blakely-Redux

 東京郊外、京王線芦花公園駅に程近い昭和の雰囲気が漂うアーケード商店街の入り口に、「アイバンラーメン」はある。座席数10席ほどのカウンター式の店だ。

 店は08年6月に開店1周年を迎えたばかりだが、混雑時には60〜70人の行列ができる。「ラーメン愛好家が作るラーメン」と店主のアイバン・オーキン(44)が言うこの店が、短期間にラーメン通の支持を勝ち取った理由の一つは、彼がニューヨークの有名フレンチレストランでシェフとして働いた経験からくるのかもしれない。

 長時間煮込んで濃厚なうま味を引き出したチキン味と、さっぱりした魚介味を混ぜたスープは、澄んだ上品な味。整った白髪ねぎの盛りつけも、洗練された印象を与える。素材は天然物にこだわる。「ニューヨークで学んだファインダイニングのやり方で調理すると、上品なスタイルになる」とオーキンは言う。

 メニューはしょうゆと塩の2種類のラーメンがメイン。打ってから1日寝かせた自家製麺は、ラーメンにはしっかりした細麺、つけ麺にはもちもち感のある太麺を使い分ける。変わりダネではなく、正統派のラーメンだ。「まじめな、基本的なものを出したかった。『おいしいけどラーメンじゃない』とは言われたくないから」

 ニューヨーク郊外で生まれ育ったオーキンは、15歳のとき日本料理店でアルバイトを経験し、日本に興味をもった。ラーメンを知ったのは大学時代に伊丹十三監督の映画『タンポポ』を見てからだ。風来坊の力を借りて、寂れたラーメン店を女主人が立て直すストーリー。当時、その映画を気に入って、何度も見直した。「どうしたらいいレストランができるか、よくわかった」と彼は言う。

 大学では日本文化を専攻。卒業後すぐに来日し、英会話学校で教えた。仕事の後はラーメンを食べ歩いた。その後帰国し、シェフの道を歩んだが、日本人女性と結婚し、40歳で日本に戻る機会を得た。

 日本ではフレンチやアメリカンのレストランを開くこともできたが、オーキンはラーメンを選んだ。「日本の食べ物に挑戦したかった。ラーメンはいちばん身近な食べ物だから」と彼は言う。急いで食べられるファストフードだが、素材を吟味したスローフードでもありうる。「おいしいフレンチは安くは作れない。でもラーメンなら、普通の人もカップルでも、高校生でも、誰でも来られる」。ラーメンを食べると楽しい気分になる。そこが好きだという。

『タンポポ』で描かれた店のように、今日も「アイバンラーメン」にはさまざまな客が訪れる。

[2008年10月15日号掲載]

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