最新記事

第6世代が中国を変える

ポスト胡錦濤の中国

建国60周年を迎えた13億国家
迫る「胡錦濤後」を読む

2009.09.29

ニューストピックス

第6世代が中国を変える

改革開放時代に育った40代のエリートが将来の指導者として台頭し始めている

2009年9月29日(火)12時51分
メリンダ・リウ(北京支局長)、ジョナサン・アンズフィールド

 今や中国共産党の出世コースとされる共産主義青年団。その第一書記に胡春華(フー・チュンホア、44歳)が就任したのは昨年末のこと。以来、人が変わったとの評判だ。事情通の学者が匿名を条件に語ったところでは、「当初は腰の低い人物とされていたが、意外とタフだ」とか。

 たとえば、共青団の管轄下にある青年政治学院のナンバー2のポストから、60歳のルー・シーチェンをあっさり解雇した。定年には達していたが、本人は現役続行を希望していた。年長者の意向を尊重するのが中国の伝統なのに、胡は事前の根回しもせずにいきなり切り捨てた。「オールド・ルーの時代は終わったんだ」と会議で言い放つ胡に、その場にいた人たちはショックを受けたという。

 そんな胡を含めた若手のエリートたちも、このところはピリピリしている。10月15日、北京の人民大会堂に全国から約2000人の代表が集まり、中国共産党大会が始まるからだ。この大会で指導部の人事が決まる。自分の地位がどうなるかは政治の風向き次第で、自分ではどうにもできない。

 党総書記で国家主席の胡錦濤(フー・チンタオ、青年団の胡と縁戚関係はない)と首相の温家宝(ウェン・チアパオ)は2期目の任期が終わる12年までの続投が決まっている。今回の党大会で注目されるのは、その後の指導者となるべき人物をどう処遇するかだ。

 注目が集まるのはポスト胡錦濤の有望株だけではない。その次の世代、つまり今40代で、順当に行けば22年に実権を握る世代の若手エリートのなかで誰がトップに躍り出るかだ。

謙虚さ欠く甘えん坊?

 胡春華や彼と同世代の周強(チョウ・チアン、47歳)、孫政才(スン・チョンツァイ、44歳)らの名は、国内でもまだほとんど知られていない。だが、遠からずなじみの顔になるはずだ。この世代のエリートたちには熱い期待が寄せられている。彼らがトップに立てば、中国の政治も変わるかもしれない。

 中国では、この世代は毛沢東の第1世代から数えて6番目の「第6世代」と呼ばれている。胡錦濤(64)は第4世代の指導者で、その後継者と目されている李克強(リー・コーチアン、52歳)は第5世代のトップランナーだ。

 だが、なんといっても国民の期待を一身に集めるのは60年代生まれの第6世代。「60年代世代」とも呼ばれるこの世代は、過去のどの世代よりも現実的で世知にたけ、海外経験も多く、教条主義的でないといわれる。しかも(中国の国営メディアは決して認めないが)、第6世代のなかには89年に天安門で民主化を叫んだ学生たちも含まれているはずだ。

 この世代が実権を握れば中国は変わると、中国人民大学の毛寿竜(マオ・ショウロン)教授は言う。「彼らの考え方はリベラルで、発想が自由だ。彼らの時代は変革の時代になるだろう」

 育ってきた時代を反映して、第6世代はイデオロギーにとらわれず、ビジネスにも通じている。この世代にはひと山当てた起業家もいれば、環境保護活動家もいる。だがナショナリズムに傾きがちなきらいがあり、ときには傲慢ですらあると評するアナリストもいる。「彼らには(先輩世代のような)謙虚さがない。ひどく甘やかされている向きもある」と、米ブルッキングズ研究所の中国専門家リー・チョンは手厳しい。

 確かに、先輩たちと比べたら恵まれた世代にちがいない。かつて、文化大革命の嵐が吹き荒れた66~76年には全国の大学が閉鎖され、学生たちは農村に「下放」されたものだ。しかし第6世代が育ったのは、第2世代の指導者トウ小平が市場経済の導入を進めた「改革開放」の時代だ。

 第6世代が受けた教育は、間口の広さでも、先輩世代に勝っている。現在の最高指導部である中央政治局常務委員9人は、すべて工学系だ。対して「60年世代のエリートは理工系に限らず、法律、経済など幅広い知識を身につけており、よりグローバルな発想ができる」と、国家行政学院の汪玉凱(ワン・ユィカイ)教授は言う。

 人々の暮らしが豊かになったときに、韓国と台湾で独裁政権が倒れたのを、第6世代は目のあたりにしてきた。彼らはその教訓に学び、危機に際して「政治プロセスにより多くの人々を参加させる道を選ぶのではないか」と、米デューク大学の政治学者シー・ティエンチエンはみる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中