コラム

香港トップ会談で露呈した習政権の無責任体質

2019年11月07日(木)16時00分

習は林鄭長官と上海で会談した。5日の人民日報の記事によると、習は会談の冒頭でまず、香港情勢に関する林鄭の報告を聞いた。それを受け習は次のように述べた。

「香港の波風は5カ月も続いたが、あなたは香港政府を率いて安定維持のために困難な仕事を遂行してきた。中央政府はあなたに高い信頼を置いている」
「暴力を止め動乱を制し、秩序を回復することが香港の当面の最重要任務だ」

この習発言のメッセージは明確である。自分がトップである中央政府は林鄭に「高い信頼を置いている」、だからこそ「君たちの責任でさっさと混乱を収束させよ」という意味だ。つまり、習もここで中央政府が何をするのかをいっさい示さず、事態収拾の責任を全部林鄭と香港政府に負わせたわけである。香港デモ開始以来、中国の最高指導者としてこの問題について初めて発した習主席の「天の声」は、結局この程度の無責任な内容でしかなかった。

習発言と韓正発言はまったく同じ方向性であることが分かるが、さらに注目すべきなのは、両者による林鄭との会談の順番である。韓正・林鄭会談に先立って習・林鄭会談が行われたが、これは共産党政府の今までの慣例から考えても、中国社会の一般的な仕事の進め方からしてもまさに異例だ。

韓正は共産党中央の香港・マカオ工作の責任者である。彼こそ香港問題の担当者であり、林鄭の直接の上司でもある。本来、大陸を訪問した林鄭はまず韓正と会談して香港情勢を報告し、対応を相談するべきだった。そして2人がある程度の対応策をまとめたうえで、そろって習を会いに最高指導者の指示を仰ぐのが普通である。

習が副首相を信頼できない理由

しかし今回、順番は全く逆だった。最高指導者の習は、香港問題担当の韓正に先立ち、しかも韓正抜きで林鄭との会談に臨んで報告を聞き、主席として中央政府の態度を示した。このやり方だと韓正の立場はもちろん、担当者の存在意味すらない。韓正と林鄭の協議の前に、中央政府の立場と態度はすでに習によって決められ、公に示された。翌々日に林鄭と会見した韓正にできることはもはや何もない。「暴力を止め動乱を制し、秩序を回復することが香港の当面の最重要任務だ」という習の言葉をそのまま重複しつつ、事態収拾の責任を全て林鄭と香港政府に負わせたのは、これが理由だ。

担当者の韓正を抜きにしてトップタウンで香港問題を片付けようとする習のやり方は、独裁者としての彼の一貫した政治スタイルだ。と同時に、元江沢民派幹部である韓正にたいする不信感も、習にそうさせた一因だろう。韓正を信頼していないからこそ、習は韓正からでなく林鄭から直接情勢報告を聞き、中央政府の姿勢を自ら決めて公言したのだろう。

あるいは韓正を信頼していないからこそ、習は現場の責任者である林鄭に「高い信頼を置き」、林鄭と香港政府に事態収拾を任せる以外にないのかもしれない。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

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