コラム

トランプは「無能=無罪」が共和党の言い訳(パックン)

2019年11月27日(水)18時30分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

He Is So Incompetent / (c) 2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<トランプの弾劾疑惑を「バカだから失敗」したと擁護する共和党の言い分は、それ自体が「バカだから失敗」するはず>

銀行に電話を入れ、大量の現金の「テイクアウト」を注文した強盗がいた。2010年のことだ。当然、銀行で御用となり、犯人自身が「お持ち帰り」された。もちろん有罪だ。風刺画が主張するとおり、普通の裁判では「バカだから失敗した」ということで許されやしない。

だが、ドナルド・トランプ米大統領の行為に関しては、そんな言い訳が飛び交っている。トランプはウクライナ政府に対し、軍事支援や首脳会談を交渉カードにして、政敵のジョー・バイデン前副大統領とその息子を捜査し、2016年の米大統領選挙にウクライナが介入した疑いについても捜査するよう求めたとされる。権力行使と自分の利益になるものの「取引」は収賄などの罪になるとし、民主党が弾劾調査中だ。

そこで共和党の重鎮、リンゼー・グラム上院議員は「トランプのウクライナ政策は支離滅裂」で「取引なんかできなさそう」とけなしながら、かばっている。「無能=無罪」という主張だ。

同時に、当該の捜査が開始されないままウクライナへの軍事支援が再開されたことで、取引は完了していないから収賄罪じゃないと、共和党は主張する。でも、軍事支援にストップがかかったのは今年7月初め。その後に、トランプが捜査開始を求めた電話会談が行われた。

8月に内部告発があり、9月9日に下院が調査を開始。そして、9月11日に軍事支援が再開された。つまり、バレた後の軌道修正だ。もちろん内部告発と調査がなくても、支援を再開した可能性はあるけど。警察に逮捕されなくても、銀行強盗が現金を返す可能性があるようにね。

未遂なら弾劾の条件を満たさないと言う人もいる。トランプ応援団長的存在、FOXニュースの司会者ローラ・イングラムが言うように「『収賄未遂』は憲法に載っていないから」!

ただ残念ながら、法律的には「収賄未遂=収賄」だ。日本の法律も「賄賂を収受、または要求、約束」と定義していて、アメリカの連邦法にも「要求し、求め、収受し......」とある。つまり、「テイクアウト」を注文した瞬間、強盗が成立するということだ。

この「バカだから失敗した」という弁護自体がバカで失敗するはず。だが、その判断は弾劾裁判を行う上院の議員に託される。彼らがバカだったらどうしよう。本当に無能=無罪かも。

【ポイント】
YOUR HONOR...MY CLIENT IS SO INCOMPETENT HE WAS CAUGHT WHILE STILL IN THE BANK VAULT!

裁判官、私の依頼人はとても無能なので、銀行の金庫室の中で捕まったんです!

SORRY THE REPUBLICAN IMPEACHMENT DEFENSE WON'T WORK HERE.
残念ですが、共和党の弾劾弁護のやり方はここでは通用しません。

<本誌2019年12月3日号掲載>

20191203issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月3日号(11月26日発売)は「香港のこれから」特集。デモ隊、香港政府、中国はどう動くか――。抵抗が沈静化しても「終わらない」理由とは? また、日本メディアではあまり報じられないデモ参加者の「本音」を香港人写真家・ジャーナリストが描きます。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story