コラム

超監視型社会『1984年』の悪夢は中国で実現する

2024年06月29日(土)17時05分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国

©2024 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<全体主義国家の中国は、SNSだけでなく空港や学校、タクシーなどあらゆる場所で監視システムを導入している。最新型のEVも例外ではない>

こんな出来事があった。国外に暮らす中国人Tが中国の親友と連絡するため、中国のアプリWeChat(ウィーチャット)を利用し始めた。そして、中国に関わる外国メディアの記事をウィーチャットで中国の親友とシェアしようとした。普通に使っていると思っていたある日、突然中国の親友から「何があった? なぜかあなたの朋友圏(モーメンツ)が真っ白になって、何も見られなくなったよ!」という連絡が来た。

びっくりしたTは慌ててウィーチャットをチェック。投稿はちゃんとある、こっちからはきちんと見えるよ、と親友に伝えた。同時に、国外にいる友人と中国にいる友人数十人以上に聞くと、あることが発覚した。

ウィーチャットアプリには、国外向けの「WeChat」と、中国国内向けの「微信」という2つのバージョンがある。「WeChat」を使う人はほぼ国外にいるので、Tの投稿はちゃんと見られる。一方、中国国内に暮らしている友人はTの投稿を見られない。

Tがシェアした国外ニュースが中国政府の禁じる内容だったため、ハイテクを使って中国国内のユーザーだけを遮断したと考えられる。用心深く、賢い技術だ。「只有想不到、没有作不到(ただ思い付かないだけ、できないことなどない)」という言葉そのままである。

ネットにはこんな投稿もあった。ある中国人ネットユーザーが中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)が新発売した新型EV「問界(AITO) M9」を購入し、友人たちを誘って初乗りをした。みんな何の心配もなく、自由にしゃべったり議論したりしていると、EVのシステムに「政治批判の話題に気を付けよう」と注意された。

車室内モニタリングシステムを搭載する新型EVにとって、個人言論の監視や収集は十分可能だろう。別の中国EVが、車内モニタリングシステムで撮った車の持ち主のプライベート写真をネットに相次いで流出させた事件も最近発生した。

全体主義国家の中国は、空港や学校、タクシーなどあらゆる場所で監視システムを導入している。彼らが個人の生活スペースを見張る可能性は十分にあり得る。ジョージ・オーウェルが小説で描いた『1984年』は中国で実現するだろう。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調

ビジネス

米フォード、4月の米国販売は16%増 EVは急減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story