最新記事
韓国

韓国観光業界が嘆く「中国人が戻ってこない」理由

2024年6月20日(木)15時25分
佐々木和義
外国人観光客で賑わうソウル・明洞

外国人観光客で賑わうソウル・明洞 撮影:佐々木和義

<中国政府は昨年8月、在韓米軍に地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)が配備された2017年以降、制限していた自国民の韓国への団体旅行を解禁した。韓国観光業界の期待にも関わらず、中国の訪韓観光需要は戻っていない......>

中国政府が23年8月、在韓米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備以来、制限していた韓国行き団体旅行を解禁すると韓国は官民挙げて出迎え準備を整えたが、9か月が経過した今、中国の訪韓需要が回復する気配はない。中国の観光需要は日本を向いている。

23年、韓国行き渡航制限も解除されたが......

中国政府は韓国に高高度防衛ミサイルTHAADが配備された2017年3月、自国民の韓国行き団体旅行を制限する報復措置を行った。月間50万人から90万人だった訪韓中国人は20万人台まで激減した。40万人台に回復した矢先、コロナパンデミックが広がった。

 
 

2020年の訪韓中国人は69万人で、21年は17万人、22年も23万人と減少傾向を続けた後、23年に入って再び増加。月間20万人台まで回復した23年8月、中国政府は韓国行き渡航制限を解除した。

韓国の観光業は色めきたった。済州島のカジノを併設する複合リゾートは新規スタッフ400人の採用に乗りだした。また、他のあるホテルはすべのレストランとカフェに中国語で注文できるテーブルオーダーシステムを導入した。ソウルのホテルも中国人スタッフを配置したし、中国語話者を採用した小売店や中国語メニューを強化したレストランもある。高麗人参や炊飯器メーカーも中国人向け商品を強化した。

韓国は、官民挙げて中国人の誘客に取り組んだが

韓国観光公社が北京と上海で観光プロモーションを実施、韓国政府はビザ発給手数料の一部免除や免税の拡大、航空便の増便支援、中国発クルーズ船に埠頭を迅速に割り当てるなど、まさに官民挙げて中国人の誘客に取り組んだ。国慶節連休を見据えて急ピッチで進められた。

中国の建国記念日である国慶節と旧暦の盆が重なる国慶節連休は、旧正月やメーデーと並ぶ大型連休で、多くの中国人が海外に出る。距離的に近い日本や韓国の観光地が中国人で溢れかえる時期でもある。

ところが、蓋を開けてみると連休前半を含む9月の訪韓中国人は26万3940人とかろうじて日本人の25万102人を上回ったが、後半の10月は24万9483人で日本人の25万5092人を下回った。
中国は同年12月、訪韓国別1位に返り咲く。訪韓日本人が20万人を割り込んだ影響だ。以降、中国は国別1位を維持するが、コロナパンデミックの期間中、海外旅行ができなかった日本人の「韓国旅行ブーム」がひと段落したのだろう。

中国人が韓国を訪問しない要因

中国人が韓国を訪問しない要因は主に3つある。まずは中国政府の内需浮揚策だ。中国は国内旅行の活性化に取り組んでおり、朝鮮系中国人が多い吉林省延吉はハングル看板が並ぶなど韓国旅行を疑似体験できる。 2つ目の要因はタイコンと呼ばれる中国行商人の激減だ。越境オンラインの発達で、行商人の需要が減った。また人気商品は中国企業が代替品を製造している。韓国を訪れることなく韓国製品や代替品を入手できるのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米国株式市場=小幅高、利下げ期待で ネトフリの買収
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中