コラム

1人で1000回受けた人も! 中国「PCR検査」をめぐる「カネ儲け」の話

2022年04月13日(水)17時51分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
PCR検査とカネ

©2022 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<中国政府によって強行されるゼロコロナ政策が、医薬品メーカーや検査キット関連会社、ホテルなどに強烈な「特需」をもたらしている>

新型コロナウイルスの感染が始まって2年。その影響で中国経済は停滞しているが、これまでGDPの成長に貢献してきた不動産に代わって「PCR経済」が勢いづいている。

「ゼロコロナ」政策にこだわる中国政府は、特にオミクロン株の急増後に大規模なPCR検査を国中で実施している。PCR検査は中国人の新たな日常だ。同時に、検査キットなど関連する医薬品を生産する会社にとって大変儲かる新ビジネスで、ある北京の医薬品企業の昨年の純利益は前年比1856.81%に達する。河南省のPCR検査関連会社の従業員がわざとウイルスをまいた、という真偽不明の情報も流れた。

中国のPCR検査は自己判断でなく政府が強制する国民の新たな義務。有効期限内の陰性証明書を持っていないと通勤・通学、受診や買い物ができない。つまり繰り返し検査を受けないと、一歩も外へ出られなくなる。1000回以上PCR検査を受けた人もいる。

強制隔離も新ビジネスだ。昨年末から今年1月にかけて西安で感染爆発したとき、隔離場所に指定されたホテルの宿泊費は普段の3倍から4倍に急騰した。抵抗すれば伝染病防治妨害罪に問われるから、隔離対象者は従うしかない。

ただ国際都市の上海だけは例外だった。専門家たちは科学と合理性を唱え、先月までは強制措置によるトラブルもなし。欧米の防疫対策を参照し、「ウィズコロナ」を主張した張文宏(チャン・ウエンホン)のような医師もいた。

ところが、これが中央政府のゼロコロナ政策と反するため先日、孫春蘭(スン・チュンラン)副首相は上海に乗り込み、習近平(シー・チンピン)国家主席の代理として防疫現場で陣頭指揮。最小限の代価で最大限の防疫効果を実現する、との習の最高指示を実践している(関連記事40ページ)。

その第1弾は人口2500万人の上海で1人も漏らさずPCR検査を実施し、しかも36時間以内に完了すること。この人類史上最大規模の検査は中央政府の強硬姿勢を上海に見せつけ、検査キット会社も大儲けできる「一石二鳥」の措置だ。人民がPCR経済と習近平のメンツの代価になっているが。

ポイント

張文宏
上海にある復旦大学付属華山病院の感染症科主任。昨年夏、「長期的にこのウイルスと共存するための知恵が必要だ」と事実上の「ウィズコロナ」を提唱。直後に元衛生相に発言を否定された。

孫春蘭
時計工から副首相に上り詰めた女性政治家。現在は衛生政策を担当。昨年末から今年初めにかけて、西安の感染爆発で診察を拒まれた妊婦が死産すると、市民の怒りの声で異例の謝罪を迫られた。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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