コラム

中国人のあふれる日本アニメ愛

2019年07月12日(金)16時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

Miyazaki's Lost Tickets / (c) 2019 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<現代中国のほとんどの若者は日本の漫画・アニメに強い影響を受けてきた>

過ぎ去った6月、日本は大阪G20サミットの開催で盛り上がったが、中国は『千と千尋の神隠し』の公開でにぎわった。上映開始8日間で興行収入は3億元(約47億円)を超え、同時期に公開されたディズニー映画『トイ・ストーリー4』より好調で、映画ランキングのトップとして大いに注目された。

そう、01年夏に日本で公開された宮崎駿監督のこの映画が18年後の今、やっと中国の映画館で上映できるようになったのだ。中国のジブリ映画ファンは興奮し、われ先にチケットを購入して映画館の座席に座った。18年前からDVDや海賊版で何回も見た映画とはいえ、もう一度映画館でこの映画を見るのは「宮崎監督に1枚分の未払いチケット代がある。今回やっと返済できた」という思いからだ。去年12月公開した『となりのトトロ』も大人気で、こちらは親子連れが多かった。

トトロと千尋のどちらのほうが好きか? という質問は中国人にとって意味がない。どちらも好きだし、そもそも一番好きなのは心温まる映画を作る宮崎監督ご本人だからだ。

80年代初期の『鉄腕アトム』以来、たくさんの日本のアニメが中国に輸入され、それぞれの世代の懐かしい思い出になっている。漫画とアニメを中国語で「動漫」と言う。現代中国のほとんどの若者は日本の動漫に強い影響を受けてきた。

15年に映画『STAND BY ME ドラえもん』が中国で公開されたときも、各地の劇場は連日超満員。「懐かしい子供時代の思い出だ」「藍胖紙(ランパンジー=青い太っちょ、ドラえもんの愛称)みたいな友達を持つことこそ僕のチャイナドリームだ」と、みんなが涙を流しながらこの映画を見た。その人気ぶりは官製メディアも無視できず、人民日報にも「藍胖紙は涙と興行収入を稼いだ」という論説が載った。

なぜ、日本の漫画・アニメは中国でこんなに人気なのか。愛と友情、希望と勇気、そして心と心の絆......人間共通の価値観を描く漫画・アニメは人々が成長しても深く心にとどまる。爆買いではなく、各地の漫画記念館やロケ地など「聖地巡礼」のために日本を訪れる中国人観光客もとても多い。中国人の「日本動漫愛」は反日教育では決して消えないのだ。

【ポイント】
ドラえもん

「機器猫」「哆啦A夢」の呼び名で中国でも人気を集め、現地でのテレビ放送は91年に開始。80年代以降に生まれた一人っ子世代の共感を呼んでいる。

「聖地巡礼」
三鷹の森ジブリ美術館、藤子・F・不二雄ミュージアム(川崎市)などの漫画関連施設だけでなく『君の名は。』で印象的な階段のシーンが描かれた東京・四谷の須賀神社も人気。

<本誌2019年7月16日号掲載>

20190716issue_cover200.jpg
※7月16日号(7月9日発売)は、誰も知らない場所でひと味違う旅を楽しみたい――。そんなあなたに贈る「とっておきの世界旅50選」特集。知られざるイタリアの名所から、エコで豪華なホテル、冒険の秘境旅、沈船ダイビング、NY書店めぐり、ゾウを愛でるツアー、おいしい市場マップまで。「外国人の東京パーフェクトガイド」も収録。


プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ・カンボジア、24日に停戦協議 ASEAN外相

ビジネス

中国万科、債権者が社債の返済猶予延長を承認 償還延

ワールド

中国、萩生田氏の訪台に抗議

ビジネス

焦点:人民元国際化に低金利の追い風、起債や融資が拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story